日本とアメリカでは不動産売買手続が大きく異なります。海外投資では税務面だけでなく、法制度や商習慣を調査することも重要です。以下に詳しく見ていきます。
1.不動産業者と情報制度
日本の不動産業者は、不動産流通機構が運営するレインズ(REINS、 Real Estate Information Network System)に対象物件を掲載するなどして、購入希望者を探すのが一般的です。
アメリカでも不動産の売買仲介は、一般的に不動産仲介業者(ブローカー)が行います。不動産仲介業者の資格は州ごとに定められています。
アメリカの不動産仲介業者は、「MLS=Multiple Listing Service」を通じて不動産に関する情報を交換しています。このMLSは日本のレインズと異なり極めて詳細な情報が提供されており、また一般人もその内容の一部に比較的容易にアクセスすることが可能です。
そのため、アメリカの不動産市場の透明性は非常に高いものになっています。
2.契約締結と手付
不動産の購入希望者は、日本の買付証明と同様に、売主に趣意書(Letter of Intent)を提出することは少なくありません。趣意書には、特段の定めをしない限り、法的な拘束力はありません。
価格や支払条件等の基本条件について合意に達した時点で不動産売買契約を締結します。同時にエスクロー(Escrow, 後述)の開設を行い、手付(Deposit,Earnest Money)を支払います。
日本では、手付の性質は別段の合意がない場合には「解約手付」とされ、相手方が契約の履行に着手するまで、買主は手付を放棄し売主は手付の倍額を支払う(現実の提供を行う)ことで、契約解約が可能となります。
しかし、アメリカでは契約解除を可能とする解約手付になるとは限らず、契約書に定めた性質を持ちます。手付放棄による契約解除が認められるとは限りませんので、契約の内容の事前確認が重要です。
不動産売買契約書は、住宅等の場合には不動産仲介業者がひな形を利用して作成することが多いですが、商業施設など少し複雑な内容の場合には、弁護士が作成に関与します。日本と比べると契約書は大部で内容も詳細になります。
不動産売買契約に定められた調査期間(Review Period)に、物件の物理的状態や権利関係を調査します。調査内容が期待したものと異なり、それが不動産売買契約に定めた決済拒否事由となる場合、買主は決済を拒否することができます。
調査結果に問題がなければ決済(Closing)となります。
3.決済におけるエスクロー(Escrow)と権原保証の役割
日本における決済では、売主と買主が一堂に会し、売買代金支払と同時履行で不動産の移転登記に必要なすべての書類(登記識別情報や登記原因証明情報、印鑑証明書など)の交付をするのが通常です。
一方、アメリカにおける不動産取引の特徴の一つに「エスクロー(Escrow)」があります。
エスクロー業者は、売主と買主から独立した立場で、不動産売買に関する手続(手付、売買代金の支払や、譲渡証書(Deed)等の登記書類の交付、物件調査など)を仲介・管理します。エスクローの資格や業務も州法が定めています。
なお、ニューヨーク州では、取引を代理する弁護士のエスクロー口座を利用します。
権原保証会社(Title Insurance Company)もアメリカにおける不動産取引で重要な地位を占めます。
アメリカでは登記制度が日本に比べると複雑であるため、権原保証会社が、対象物件の所有権、抵当権や先取特権、地役権などの存否について調査を行って報告書を作成し(Title Report)、その内容を保証します。そのため買主は、不動産の法的な権利面については安心して不動産取引ができます。
もっとも、権原保証(Title Insurance)は、権原以外の物的な瑕疵は対象としません。たとえば、不動産の物的な瑕疵(シロアリの存在やボイラーの故障など)については、「Caveat Emptor(買主よ、注意しろ)」の原則が適用されますので、事前の物件調査は必須です。
売主により譲渡証書(Deed)が作成され、売主から買主に(エスクローを通じて)引き渡されたとき(Conveyance)、不動産上の権利(Title)が移転することになります。
以上、アメリカの不動産取引についての流れを解説を行いました。海外不動産投資に関するお悩みごとは、経験豊富な当事務所へまずはご相談ください。
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