国際相続コラム

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アメリカ市民とアメリカ居住外国人の、連邦所得税の計算方法について教えてください

  • 海外投資に必要となる知識

アメリカの連邦所得税では、夫婦合算申告など複数の申告資格が認められます。日本の所得税の計算と異なり、すべての所得を合算する総合課税により所得税の計算をしますが、長期資本譲渡益や配当所得には、分離課税による優遇税率が認められています。

また、代替ミニマム税制度など日本の所得税にはない制度もあります。

1.申告資格(Filing Status)

日本では所得税の申告に関し、個人の申告資格しかありませんが、アメリカでは下記のように5つの申告資格に分類されています。

【申告資格】

夫婦合算申告(Married Filing Jointly: MFJ)

夫婦個別申告(Married Filing Separately: MFS)

適格寡夫・寡婦(Qualified Widow(er),Surviving Spouse)

特定世帯主(Head of Household)

単身者(Single)

夫婦の場合、所得の高い配偶者に節税効果が生まれる夫婦合算申告(Married Filing Jointly:MFJ)を選択することがほとんどのようですが、MFJを選択すると、夫婦はそれぞれ連帯納付責任(Joint and Several Liability)を負うことに注意が必要です。

2.申告期限

⑴ アメリカ市民及びアメリカ居住外国人

連邦個人所得税は暦年ベースで課税され、アメリカに住むアメリカ市民及びアメリカ居住外国人については、原則として翌年の4月15日(土日祝日の場合翌営業日)の法定期限までにForm1040(連邦個人所得税申告書)を内国歳入庁に提出して申告・納税する必要があります。

⑵ 申告期限の延長

申告書の提出期限延長は法定期限(4月15日)までにForm4868を提出して行います。アメリカ在住者には6か月間の自動延長が認められ、その場合の申告期限は10月15日となります。もっとも、申告期限が延長されても納税義務が延長されるわけではなく、法定期限までに暫定的な税額を納税する必要があり、実際の税額との不足分には遅滞利息が課され、加算税が課されることもあります。

3.アメリカの連邦所得税の計算

アメリカの連邦所得税の計算方法は以下の通りです。

【所得税の計算】

① 総所得(Gross Income)の算出:経済的利得から原価や非課税所得の控除

② 調整総所得(AGI)の算出:総所得から経費や所得調整の控除

③ 課税所得の算出:調整総所得から標準控除又は項目別控除を選択して控除

④ 所得税額の計算:課税所得に累進税率を適用

⑤ 確定税額の算出:所得税額から税額控除(外国税額控除等)を控除

4.総所得の算出

⑴ 総所得

連邦所得税の計算は、まず総所得(Gross Income:GI)の算出から始めます。

総所得(GI)には、給与、配当、利子収入、事業収益(売上原価を控除した総所得)、譲渡収益(原価を控除したキャピタル・ゲイン)や賃貸収益など、原則として源泉徴収の有無を問わず全ての所得が含まれます。

⑵ 総所得控除項目

そもそも総所得に含まれない(総所得から控除される)収入もあります。

ア 相続、贈与

遺産税や贈与税が課せられる相続財産受贈益や死亡によって支払われる生命保険金などは、日本と同様に所得税は課税されません(贈与者や遺産財団に贈与税や遺産税が課税されます)。

イ 離婚による手当

2018(平成30)年12月31日以前の離婚や別居による離婚補助手当や別居補助手当も、総所得から除外されます。

ウ 福利厚生

企業の福利厚生(団体生命保険料、健康保険や傷害保険の保険料など)、その他社会福祉やその他の目的から総所得から除外されることが相応しい非課税所得(Exclusions)も、総所得から除外されます。

エ 州債や地方債の利息

州債及び地方債の受取利息も総所得から除外されます。

オ 海外所得控除制度

外国に住む適格個人(※)は、当該個人の外国人勤労所得(企業に提供した個人的サービスに対する賃金や報酬に限られ、収益や利益の分配に相当するものは含みません)及び住宅費用額を、一定額(2024(令和6)年では12万6500ドル、夫婦合算するとこの2倍の額)を上限として、アメリカで申告する総所得(Gross Income)から除外することができます(IRC911)。

控除額は税務申告書(Form1040)にForm2555を添付して計算します。

※適格個人とは、外国に納税地を持つ個人で、①アメリカ市民であり、課税年度全体を含む連続した期間、外国の善意の居住者(Bona Fide Resident)であったことをIRS長官が納得する形で証明する者、または②アメリカ市民又は居住者で、連続した12か月間に少なくとも330日以上、外国に滞在しているものをいいます。

⑶ 収入と所得

一般的に所得とは、売上(収入)から、原価と、労務費、減価償却費など収入を得るために必要な経費を差し引いたものをいいます。

所得=収入−(原価+経費)

収入から原価を控除したものが総所得(GI)となり、各種経費など所得調整項目を差し引いたものが調整総所得(AGI)となります。

主な所得は以下の通りです。

ア 役務所得

給与、賃金、ボーナス、歩合、謝礼、チップなど人的役務提供の対価として得た報酬は総所得に算入されます。

支払者が発行するForm W-2(日本でいう源泉徴収票)に基づいて計算します。日本と異なり、高額給与所得者でなくとも原則として申告が必要です。

イ 利子所得

利子は資金提供の対価で、原則としてすべて総所得に算入されます。利息支払者である金融機関等が発行するForm1099-INTに基づいて計算します。

アメリカでは、アメリカ国債、地方債、米国政府抵当金庫(Government National Mortgage Association:GNMA,通称Ginnie Mae ジニーメイ)、企業の発行する社債などへの投資も多く行われます。

アメリカ合衆国連邦債は、州税等については非課税ですが連邦税は非課税ではありません。州債及び地方債の受取利息は非課税となります。

ウ 配当所得

株主が法人から受取った配当は、原則としてすべて総所得に算入されます。配当を支払う会社が発行するForm1099 – DIVに基づいて計算します。

なお、2003(平成15)年より、一定の条件を充たした適格配当所得(Qualified Dividend Income:QDI)については資本純利得に適用される軽減税率(0%、15%、20%)で課税されることになりました。

この制度により株式保有による配当所得と株式売却による資本利得との間の租税の中立性が保たれるようになりました。

エ 年金所得

年金契約(Annuity)、養老年金契約(Endowment)、又は生命保険契約に基づいて支払われる年金受取額は、投資額(出捐額)を超過する部分が総所得に算入されます。

オ 社会保障給付

社会保障給付額(Social Security Benefit)は、Form SSA-1099(非居住外国人の場合SSA-1042S)に基づいて計算します。社会保障給付は、受給者の経済的な余裕度合いに応じて総所得への算入割合が変わり、最大で85%が総所得(GI)に算入されます。

カ 事業所得

事業所得については、計算明細や内訳を、別表C(事業収支計算明細書)を用いて計算します。

キ 賃料及び使用料(Rent,Royalty)

賃料及び使用料も、別表E(賃貸・ロイヤルティ収支計算明細書)を用いて計算します。

ク 資本損益(キャピタル・ゲイン、キャピタル・ロス)

資産取引から認識される損益には、資本損益(Capital Gain and Loss)と通常損益(Ordinary Gain and Loss)があります。資本損益のうち長期資本損益には分離課税により軽減税率が適用されます。

5.調整総所得(Adjusted Gross Income:AGI)の計算

⑴ 所得控除の種類

所得控除項目は、調整総所得(Adjusted Gross Income:AGI)を基準に以下の二つに大別されます。

① 調整総所得前控除(Deductions for Adjusted Gross Income)

② 調整総所得後控除(Deductions from Adjusted Gross Income)

 

総所得(GI)から調整総所得前控除を控除して、調整総所得(Adjusted Gross Income:AGI)を計算します。

⑵ 調整総所得前控除

調整総所得前控除には、個人事業主の事業経費や賃料収入、使用料収入の経費などに加えて、IRA(Individual Retirement Account,個人退職基金口座)への拠出金、転勤費用などが含まれます。

6.課税所得(Taxable Income)の計算

⑴ 調整総所得後控除(項目別控除と標準控除)

調整総所得(AGI)から調整総所得後控除を差し引いて課税所得(Taxable Income)を計算します。

調整総所得後控除の控除方法には、①標準控除(Standard Deduction)と②項目別控除(Itemized Deduction)があり、納税者がいずれかを選択しますが、アメリカ非居住外国人には項目別控除しか認められていません。

⑵ 標準控除(Standard Deduction)

2023(令和5)年と2024(令和6)年の申告資格別の標準基礎控除額は以下の通りです。2017(平成29)年まで存在した人的控除及び扶養控除額が、2018(平成30)年から2025(令和7)年までゼロとされる一方で、標準控除額が大幅に増額されました。

⑶ 項目別控除

ア 項目別控除の内容

主な調整総所得後控除には次の6つがあります。

 

 

従来、人的控除(Personal Exemption、納税者本人の控除と配偶者の控除)・扶養控除(Dependency Exemption、扶養家族人数分の扶養控除)が、項目別控除に認められていましたが、2018(平成30)年以降2025(令和7)年までは、控除額はゼロになりました。

高額所得者に対して、項目別控除額を減らす規定がありますが、2018(平成30)年から2025(令和7)年まで適用されません。

イ 税金

個人の所有する賃貸用不動産に対する固定資産税は、Form1040別表Eで計算をして、賃貸所得から調整総所得前控除として控除できますし、事業用資産の場合には別表Cで事業経費として控除します。

それ以外に、自宅や別荘の固定資産税も項目別控除として控除ができます。住宅ローン所得控除と異なり、3軒以上の住宅の固定資産も控除できますし、外国で所有する自宅不動産の固定資産税も控除することができます。

なお、2025(令和7)年までは、外国固定資産税の控除は認められず、控除可能な州・地方税の合計は1万ドル(夫婦個別申告の場合は5000ドル)までとなります。

ウ 支払利息(住宅ローン利息控除など)

事業活動や賃貸活動で支払った利息は、経費計上できますが、これらに該当しない投資利息も、当該課税年度の投資純利益を限度に、項目別控除として控除が可能です。

住宅ローン利息は、住宅2軒分まで、一定の限度額に対する借入利息の控除が可能です。適格教育ローンの利息も一定限度控除が可能です。

エ 事業所得控除

上に挙げる6つ以外にも、法人所得税の大幅な引下げに伴い、2018(平成30)年から2025(令和7)年まで、個人等の事業所得に一定の控除が認められます。この控除は標準控除を選択している場合でも控除が可能です。

7.所得税額と確定税額の計算

⑴ 所得税額

課税所得に税率を適用して所得税額を算出します。

税率は5つの納税者の申告資格(Filing Status)に応じて税率表(Tax Rate Schedule)が定められており、税率は15%~39.6%の5段階の累進税率となっていますが、2018(平成30)年から2025(令和7)年までは10%~37%の7段階の累進税率となっています。この税率表はインフレ率などを加味して、毎年修正がなされます。

⑵ 税額控除と確定税額の算出

所得税額から税額控除額を控除して確定税額を計算します。

ア 税額控除

所得税額から税額控除(Tax Credits)を控除した額が確定税額となります。

税額控除には、国際的二重課税を回避するための外国税額控除と、政策的減税を目的とする税額控除があります。

イ 外国税額控除

アメリカで二重課税を回避するための税額控除には、税率を適用する前の所得から、項目別控除として外国所得税額を控除する方法と、税率を適用した後の税額から外国税額を控除する外国税額控除(Foreign Tax Credit)の二つの方法があります。

一般的には外国税額控除の方が、納税者の負担は少なくなりますが、外国税額控除の限度枠は、所得の種類ごとに、外国源泉所得が全世界所得に占める割合を基準として以下の通り計算されます。

限度額 = (国外源泉所得/全世界課税所得合計)× 外国税額控除前の連邦税額

8.代替ミニマム税

アメリカには、高所得者が、各種の控除や非課税所得などを用いた過度な租税回避行為によって不当に課税を逃れることを防止するために、代替ミニマム税(Alternative Minimum Tax:AMT)という制度が存在します。

上述の通常の税額計算とは別に、法に基づく特別な計算方法により仮最低税額を算出し、通常税額を超過する金額を代替ミニマム税として、通常税額に加算して納税させるものです。

2018(平成30)年に法人の代替ミニマム税はいったん廃止されましたが、2022年の税制改正で会計上の利益を課税標準とする新たな代替ミニマム税が導入され、2023年度から適用されます。

個人、遺産財団そして信託の代替ミニマム税はまだ残っています。代替ミニマム税はForm6251を用いて算出します。

 

以上、アメリカ市民とアメリカ居住外国人の、連邦所得税の計算方法について解説しました。二国間のご相談も、経験豊富な当事務所へまずはご相談ください。

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