依頼者:アメリカ在住日本人(被相続人の子)
被相続人:日本在住日本人
1. 事案
米国在住の相続人(依頼者)は、日本で暮らす相続人の代理人弁護士から、被相続人の死亡と遺産分割に関する連絡を受けました。この代理人弁護士によると、被相続人には多額の負債があり、その金額は相続財産を超過するものとのことでした。
2. 課題
相手方の代理人弁護士の話によれば、相続放棄や限定承認の申立てを検討すべきことになりそうですが、米国在住の相続人(依頼者)は、被相続人とは長年交流がなくその生活状況や資産状況については全く把握しておられなかったため、まず資産状況について正確に把握することを希望されました。
また、米国在住の相続人(依頼者)は、日本の相続人とも全く面識がなく、仮に、被相続人の財産を相続することとなった場合、遺産分割協議をどのように進めるべきかという点についても悩んでおられました。
3. 当事務所の対応
受任の時点で、相続放棄の熟慮期間である3か月がまもなく満了しようとしていたので、至急、熟慮期間の伸長の申立てを家庭裁判所に対して行いました。
上記の申立てにより伸長された熟慮期間中に、相手方の代理人弁護士に対して連絡をとり、相続財産・債務に関する資料の開示を求めました。また、弁護士会照会などを利用し、独自の調査も並行して行いました。
調査の結果、相続財産が相続債務を少し上回ることが分かり、方針を相続放棄や限定承認から単純承認へ転換することになりました。
相手方の代理人弁護士と遺産分割協議に関する交渉を行いました。
4. 成果
当初、相続財産よりも相続債務が上回るという見通しでしたが、綿密な調査と財産等の関係資料の開示の交渉を行った結果、この見通しとは逆に依頼者は相続財産の残りから財産の分割を受けることができました。
また、海外在住の相続人が存在する場合、通常、遺産分割協議の際に在外公館で発給されるサイン証明や在留証明などを得る必要がありますが、本件では、家庭裁判所の遺産分割調停の手続を利用して協議を成立させたため、依頼者はサイン署名や在留証明を取得する手間が一切かかりませんでした。
5. 依頼者の声
実父が他界した事を知ったのは2年前。
彼が亡くなった8年後のことでした。
私は生後まもなく実父自身の手で乳児院に預けられた経緯があり、実父の顔も連絡先も知りませんでした。
実父がその後どこかで築いた新しいご家族、その代理人である弁護士A氏からのEメールで、実父が8年前に他界していた事実と遺産相続の権利が私にもあることを知ったのです。
弁護士A氏がどのような手段で私のEメールアドレスを知り得たのかはわかりませんが、その内容は私にとってショッキングなものでした。
弁護士A氏から送られてきたEメールには、父には持ち家があったものの借金が多く債務が上回る相続だったと書かれており、もし私が相続権を主張するならば逆にこれまでに実父のご家族が負担した借金清算費用の一部を私にも負担してほしいとはっきりと相続権の放棄を勧める内容となっていました。
生後まもなくの経緯があったため、私から実父への感情には複雑なものがありましたが、永遠に会う事が叶わなくなったことで行き場のない想いがあふれ、心は乱れていました。
その心に「これでもか!」と追い討ちをかけられたような気持ちになったことを今でも憶えています。
どうすべきか数日迷いましたが、私にとっていればこの相続はお金の問題ではなく、実父との最初で最後の繋がりの機会のため、できる限り正確なことを知り、納得した上で、相続についての結論を出したいという考えに至りました。
調査を通して、実父の人生に触れる事ができると思ったのです。
しかし私は法律にはもちろん無知、日本にいる弁護士A氏という専門家を相手に何をして良いかもわかりませんし、私が海外在住の為、そもそも何もできません。
私の代わりをしてくれる弁護士さんが必要だと、数日間インターネットを探し回り、本町国際綜合法律事務所のホームページを見つけ、緊張しながらお問い合わせの電話をかけました。
私からの電話にご対応くださったのは、阪口英子先生でした。
口頭での説明が苦手な私ですが、阪口先生は私の事情を親身になって聴いてくださり、いつの間にか緊張を解いて話すことができていました。
こうして阪口先生に代理人をお願いする事となりましたが、その後事件が決着するまでに1年と10か月もの期間を要しました。
しかしそれは全て相手方の弁護士A氏の対応の遅さゆえの事でした。
阪口先生はというと、その間いつも変わることなく、私の心情に合わせた最善の道を探してくださり、温かい言葉をかけ続けてくださいました。
それどころか、阪口先生からすると1円の得にもならない交渉を先方にしていただいたお陰で、私は実父の写真を拝領する事ができ、会う事が叶わなかった生前の父の面影を知ることができました。
負債が上回っていると聴いていた遺産についても、阪口先生による丁寧で入念な調査の結果、そこまでの負債は残っていない事がわかり、少額ではありますが遺産を受け取る事ができました。
父からの最初で最後のお小遣いとして、ずっと遣わないでおこうと思っています。
この事件以前は、乳児院~児童養護施設で過ごした自分の人生の始まりを卑下する気持ちが私の心のどこかにあり続けていましたが、気が付けば今、それを消し去ることができていました。
もしもあの日、弁護士A氏からのメールに負けてしまい阪口先生に出会えていなかったら何一つ得る事はできませんでした。
振り返ると阪口先生には、本当にたくさんのご質問とお願い事をしましたが、その全てに阪口先生は親身にお応えくださいました。
私からの質問や提案を頭から否定することは一度もせず、いつも私のために前向きに考えてくださり、ご助言くださりました。
長きにわたり支えていただき感謝しております。
阪口先生、本当に有難うございました。