国際相続コラム

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日本居住者がアメリカにある財産を相続した場合、評価や譲渡所得はどうなるのでしょうか

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たとえばアメリカ所在の不動産を、日本居住の相続人が相続した場合、相続財産の評価はどのように行うのでしょうか。

日本における申告では、原則としてアメリカの相続財産の評価も財産評価基本通達に定める評価方法で評価しますが、一定の限界があります。また、そのアメリカで相続した不動産をすぐに売却した場合、日本とアメリカで譲渡所得(キャピタル・ゲイン)は大きく異なることになります。

以下に詳しく見ていきます。

1.相続税計算における国外財産の評価

⑴ 日本の相続税法上の評価

原則は、日本国外にある財産についても財産評価基本通達に基づいて評価しますが、それが困難なケースでは、

①財産評価基本通達に定める評価方法に準じた方法、もしくは

②売買実例や専門家の鑑定価格等

を参酌して評価することになります(財産評価基本通達5-2)。

このような場合、課税上の弊害がない限りは、その財産の取得した際の価額を基にして、所在地域や国にある同様の財産の一般的な価格動向と過去の取引事例を参考として修正した価額や、課税時期(被相続人が死亡した日)後にその財産を譲渡した場合の譲渡価額を基に、課税時期現在の価額として算出した額で評価することができる、とされています。

⑵ 外国財産の円換算

ところで、外国にある財産を円で換算するには、どの時点のレートが適用されるでしょうか。

これは、原則として、納税義務者の取引金融機関が公表する課税時期(相続又は遺贈の場合は被相続人の死亡の日、贈与の場合は贈与により財産を取得した日)における最終のTTB(対顧客直物電信買相場ともいい、金融機関が顧客から外貨を買って円を支払う/顧客が外貨を円に替える際に適用される為替レートをいいます)又はこれに準じる相場を用います。

⑶ 外国不動産の評価方法

国外にある土地には路線価がないため、財産評価基本通達に定める評価方法を用いることはできません。

そこで、外国不動産を評価するために、

①売買実例価額

②精通者意見価格

③当該外国の地価の公示制度に基づく価格

④不動産の取得価額や相続後の売却価額を基準に価格変動率に基づく時点修正を行った評価価額

を用いる事になります。

もっとも、源泉地課税に基づきアメリカでも遺産税の申告・納税の対象となり得ますので、不動産評価額は必要となります。アメリカには路線価制度がありませんので、鑑定士に不動産の相続開始時の価格の鑑定を依頼します(なお、日本と比べると鑑定費用は安価です)。

この点、アメリカ所在の不動産の評価について、現地の市財産税評価額に基づく評価ではなく、アメリカ遺産税の申告時に用いた不動産鑑定額を日本でも用いるのが妥当であるとした国税不服委審判所裁決があります(国税不服委審判所裁決平成28年2月4日)。

⑷ 外国法人株式の評価方法

外国法人株式も、原則として財産評価基本通達に基づいて評価します。上場株式や気配相場等のある株式の評価は容易ですが、取引相場のない株式の場合、類似業種比準価額方式は使えないため、純資産価額方式に準じて評価することとなります。

この場合、原則として「1株当たりの純資産価額」を計算した後、TTBにより邦貨換算しますが、資産・負債が2か国以上に所在しているなどの場合には、資産・負債ごとに、資産についてはTTB、負債についてはTTS(金融機関が顧客に外貨を販売する/顧客が日本円を外貨に替える際に適用される為替レート)を用いて1株当たりの純資産価額を計算する事になります。

2.相続後の売却と日米の譲渡所得

⑴ アメリカ不動産の日本における譲渡所得(日本居住者)

ア 譲渡所得の分離課税

日本では、不動産を売ったときに得たもうけは「譲渡所得」として、所得税と住民税に課税されます。なお、給与所得などの他の所得と分離して独自の税率で課税されます(分離課税)。土地や建物を売ったとき|国税庁 (nta.go.jp)

税率は、その不動産の所有期間が、売った年の1月1日時点で5年を超えるかどうかによって異なります。所有期間が5年を超える場合(長期譲渡所得)には税率が15%(復興特別所得税合わせて15.315%、住民税合わせて20.315%)、所有期間が5年以下の場合(短期譲渡所得)には税率が30%(復興特別所得税合わせて30.63%、住民税合わせて39.64%)とされています。

イ 取得原価

譲渡所得は、総収入金額(不動産の売却額)から取得費(その不動産を買い入れた際の代金など)及び譲渡に要した費用(仲介手数料など)の合計額を控除した金額となります。

課税譲渡所得金額=譲渡価額 -(取得費+譲渡費用)- 特別控除額(※一定の場合)

「取得費」は、その資産の取得に要した金額ならびに設備費及び改良費の金額の合計額をいい、減価償却資産の場合は未償却残額です。限定承認の場合を除き、個人が贈与・相続及び遺贈によって資産を取得した場合には、取得した者が引き続きその資産を所有していたものとみなされます。

つまり、取得者は贈与者や被相続人の取得費をそのまま引き継ぐことになります。すると、被相続人が取得したときの価格は現在の価値からすると非常に低額であることが多く、相続人が相続不動産を売却する際には譲渡所得が生じるケースも多くなります。

後述の、ステップ・アップが認められるアメリカとはこの点で異なります。

ウ 相続財産売却時の取得費加算の特例

相続によって取得した土地を、相続税申告期限(通常の場合は、被相続人の死亡の日の翌日から10か月以内)の翌日から3年を経過する日までに譲渡した場合、支払った相続税額の一部を取得費に加算することができます。

上記の通り、譲渡所得は不動産の売却金額から取得費等の費用を差し引いた額に課税されるものですので、取得費が大きくなれば、税負担は減ることになります。

⑵ アメリカにおける譲渡所得

ア 課税額

賃貸事業目的で1年を超える長期保有の不動産(1231条資産と呼ばれます)の譲渡益は、長期資本益として分離課税されて優遇税率(0%、15%、20%)が適用されます。

ところで、アメリカでは、相続した財産は、原則として被相続人の死亡時における当該資産の公正な市場価格が取得額となります(IRC1014(a)(1),「ステップ・アップ」と呼ばれます)。

ですので、相続直後に売却をする場合、アメリカでは譲渡所得が発生しないことが多く、それに対するアメリカでの税金はかからないことが多いでしょう(ただし、上述の通り日本居住者は日本で譲渡所得税を申告する必要があります)。

なお、ステップ・アップが認められるのは相続時に限られ、贈与ではステップ・アップは認められないので注意が必要です。

イ 課税方法(源泉徴収)

アメリカ非居住外国人によるアメリカ不動産の売却は、アメリカ非居住者用の申告フォーム(Form1040NR)を用いて申告・納税する必要があり、居住者と同様、長期資本益として分離課税、あるいは10%~37%の累進税率が適用される総合課税の対象となります。

なお、アメリカ非居住外国人によるアメリカ不動産の売却時には、FIRPTAと呼ばれる源泉徴収義務(売却額の最大15%)が買い手に対し課されており、売却額から自動的に納税額が差し引かれますので、売り手の手元に残るお金はその分減ることになります。

⑶ 二重課税の回避

このように、相続財産を売却した場合の譲渡所得については、日本とアメリカで計算方法は大きく変わります。

日米租税条約では、不動産譲渡所得は不動産所在地国において課税でき、日米両国とも外国税額控除方式により二重課税を回避することができますが、実際の手続においては専門家の関与は欠かせないと言えるでしょう。

 

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