国際相続コラム

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アメリカでの不動産投資に関し、日本の所得税について教えてください

  • 海外投資に必要となる知識

例えば、ハワイに賃貸用の中古木造不動産を日本在住者が購入し、それを賃貸して収入を得たり、売却して利益を得た場合、日本の所得税についてはどうなるでしょうか。

結論から言うと、こういった場合も、日本の所得税法に基づいて申告・納税することになります。

なお、海外中古木造不動産投資によるタックスプランニングには、2021(令和3)年から一定の制限が加えられたことで個人にとっては以前ほどの大きな節税効果はなくなりましたので、注意が必要です。以下に詳しく解説します。

1.日本居住者のアメリカ不動産の賃貸所得

⑴ 所得の分類(不動産所得と事業所得)

日本居住者の個人(無制限納税義務者)である場合、アメリカ源泉所得であるアメリカ所在の不動産から発生した家賃収入も、不動産所得または事業所得として日本における所得税の課税対象となります。

不動産経営の所得が、事業所得に該当するのか、それとも不動産所得に該当するかの区別が問題となりますが、不動産の貸付けについては、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われていなければ、事業所得ではなく不動産所得とされます。

⑵ 海外収益・支出の日本円換算

ところで、外貨で支払われる外国源泉所得は、所得税申告の際には日本円に換算する必要があります。

不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得については、継続的に適用する事を条件として、売上等の収入の計算については取引日の電信買相場を、仕入その他経費等の支出の計算については取引日の電信売相場を用いて計算することができます。

また、業務に係る損益計算書などを外国通貨表示で作成している方は、収入と支出を当該年の年末における為替相場により換算することもできます(継続的に適用することが条件)。

⑶ 減価償却の計算

ア 新築建物

不動産所得もしくは事業所得の計算では、建物の減価償却費も必要経費として計上されます。

日本における減価償却の耐用年数は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(昭和40年大蔵省令第15号)に定められています。建物の法定耐用年数は下記の通りです。

イ 中古建物

中古資産を取得した場合の法定耐用年数は、その事業に供した時以後の使用可能期間として見積もられる年数となりますが、この見積りが困難である場合には、以下の簡便法の利用が可能です。もっとも、取得価格が当該不動産の再取得価格の50%を超える場合は除きます。

①法定耐用年数の全部を経過した資産は、その法定耐用年数の20%に相当する年数

②法定耐用年数の一部を経過した資産は、その法定耐用年数から経過した年数を差し引いた年数に経過年数の20%に相当する年数を加えた年数

ウ アメリカ不動産投資の日本の節税効果

アメリカでは、日本に比べて建物の土地に対する価値の割合が高く、かつ中古建物の価値も大きく下がらないため、日本の住宅用木造建物の法定耐用年数である築22年を超えた木造建物でも、減価償却の計算の基礎となる建物価値は高いままです。

そこで、簡便法により算定した年数(木造の場合最短4年)で減価償却すれば、日本の不動産所得や事業所得で大きな計算上の損失を計上することが可能となるため、他の所得との損益通算することで、日本の総所得金額を大きく減額することが可能でした。その上で売却時の譲渡益には、長期譲渡所得の分離課税により15%(復興特別所得税合わせて15.315%、住民税を合わせると20.315%)の税率を適用できます。

このように、所得税の計算において大きな節税効果が認められたことから、日本の富裕層の間では、長年、アメリカ中古不動産に対する投資が注目を浴びていました。

しかしながら、近年では法改正(次項参照)により、個人については節税効果が薄くなってしまいました。もっとも、2021年の税制改正後も、海外の中古不動産を複数所有する場合、これらの間で損益通算することは可能ですし、また、同年の税制改正による規制は個人に対するものであるため、法人に関しては従来通り、海外の中古不動産の損益通算を活用した節税が可能です。さらに、海外の中古不動産について減価償却費に起因する損失額は、当該中古不動産を売却した時の譲渡所得の計算で活用することができます。

エ 不動産所得における海外不動産の減価償却に関する改正

まず、1992(平成4)年分以降の不動産所得については、損失があっても、土地等の取得のために要した借入金利子に相当する損失部分は損益通算において生じなかったものとみなされるようになりました。

さらに2021(令和3)年以後、個人が国外中古建物から不動産所得を有する場合で、計算上国外不動産所得の損失がある場合には、減価償却費に相当する損失部分は損益通算において生じなかったものとみなされるようになりました。

これにより、個人については損益通算による大きな節税効果は認められなくなりました。

なお、生じなかったとみなされた減価償却部分は、売却の時に取得費から控除される減価償却累計額からは差し引かれ、その金額だけ譲渡所得は圧縮されることになります。

また、法人の減価償却については従前通りです。

2.日本居住者のアメリカ不動産の譲渡所得

⑴ 所得の分類

不動産賃貸業に用いる不動産の譲渡による所得は、原則として事業所得や雑所得ではなく譲渡所得となります。

⑵ 減価償却累計額と不動産譲渡税の計算

不動産売却時の取得原価は上述の減価償却後の建物価値となるため、それまでに大きな減価償却を計上している場合、譲渡時における取得原価は大きく減価されていますので、その分だけ譲渡益が大きくなります。

⑶ 不動産譲渡所得の分離課税

不動産の譲渡による所得は(不動産賃貸が事業の場合でも)原則として譲渡所得となり、特別措置として他の所得と分離して課税され、所有期間が売却年度の1月1日時点で5年を超える長期譲渡所得の場合には税率が15%(復興特別所得税合わせて15.315%、住民税を合わせると20.315%)、所有期間が5年以下の短期譲渡所得の場合には税率が30%(復興特別所得税合わせて30.63%、住民税を合わせると39.64%)とされています。

日本の所得税・住民税の最高税率は55%ですので、分離課税は高額納税者にとっては有利に働きます。

なお、不動産の長期・短期の譲渡所得の計算上生じた損失は、不動産譲渡による所得以外の所得との損益通算及び翌年以降への繰り越しは認められていません。

3.外国の不動産投資収益に係る二重課税の回避

日米租税条約では、不動産所得や不動産譲渡所得は不動産所在地国において課税でき、日米両国とも外国税額控除方式により二重課税を回避することになっています。

そこで、アメリカで課税された所得税を、日本で外国税額控除することにより、二重課税が回避されます。

4.個人でアメリカ不動産を所有する場合の注意点

投資や節税目的でアメリカ不動産を所有する富裕層は大勢おられます。

しかし、何も対策をせずに個人名義で海外資産を所有する場合、仮に不慮の事故などで相続が生じると、日本から遠く離れたアメリカでプロベートという相続手続きが必要となりますので、これにはお金も時間もかかり、相続人が大変苦労をすることになります。

投資前には税務面だけでなく、相続までを見越した法務面での検討が非常に重要となります。

 

以上、アメリカでの不動産投資に関しての日本の所得税について、解説しました。二国間にまたがる資産についての相談は、経験豊富な当事務所へまずはご相談ください。

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