日本在住者のアメリカでの所得は、日本とアメリカの両国で課税されますが、では二重課税の回避がどのように行われるのでしょうか。
世界各国は、二重課税の回避に関する国内法を整備すると同時に、外国との間で様々な租税条約を締結して二重課税に関する調整を行っていますので、以下に詳しく解説いたします。
1.居住地国課税ルールと源泉地国課税ルール
⑴ グローバル世界においてローカルな租税法
インターネットや国際輸送が発達した現代においては、海外取引や海外投資といった経済活動は国境を容易に越えグローバル化しています。ところが、国際協調の動きは活発になってはいるものの、各国の租税法はローカルに制定されます。
⑵ 国際的な所得課税のルール
国際的な所得に対する課税のルールには大きく分けて、居住地国課税ルールと源泉地国課税ルールがあります。
① 居住地国課税ルールは、「誰の所得か」を中心にして考え、自国民や自国居住者の全世界で発生した所得を課税対象とします。
② 源泉地国課税ルールは、「どこで発生した所得か」を中心にして考え、他国居住者の自国内で発生した所得を課税対象とします。
⑶ 二重課税の不都合性
国境を越える経済活動に対して、居住地国では居住地国課税ルールに基づいて、所得源泉国では源泉地国課税ルールに基づいてそれぞれ課税をすると、納税者にとっては、同じ所得について二重に税負担が課せられることになります。
このような事態を放置すると、結果として国際的な経済活動を抑制することになってしまい、各国の税収に影響を及ぼすことになります。
そうならないよう、世界各国は二重課税の回避に関する国内法を整備すると同時に、様々な租税条約を締結して調整を行っています。
2.居住地国における課税と二重課税の回避
⑴ 外国税額控除と国外所得免除
居住地国は、原則として居住者の全世界の所得に課税します。
居住地国が国際的二重課税を回避する方法には、大きく分けて、外国税額控除方式(Credit System)と国外所得免除方式(Exemption Method)があります。
① 外国税額控除方式は、居住地国課税ルールを採用した上で、納税者が外国政府に納付した外国税の額を、自国の所得税ないし法人税の税額から控除する方式です。
② 国外所得免除方式とは、そもそも国外源泉所得を課税の対象から除外する方式です。
世界各国は、この二つの方式のいずれか、もしくは折衷方式を採用することで、国際的二重課税を回避しています。
⑵ 日本における二重課税の回避
日本の所得税法及び法人税法は、外国税額控除によって国外源泉所得に対する二重課税を回避したり、外国税額を必要経費や損金に算入する方法で二重課税を回避してきました。
しかし、2009(平成21)年度法改正で、法人が外国子会社から受け取る配当等は益金不算入として国外所得免除方式も採用するに至っています。
⑶ 租税条約による修正
租税条約は、締結国の課税権を制限して国際的な二重課税をできるだけ回避することを主たる目的としています。租税条約は国内税法の規定に優先して居住地国における課税を軽減・免除しますので、問題となる租税条約の確認が必要です。
3.非居住者に対する源泉地国における課税
⑴ 源泉徴収と申告納付
源泉地国が国内源泉所得に課税する方式には、大きく分けて、源泉徴収と申告納付の二つの方式があります。
① 源泉徴収は、主に支配を伴わないポートフォリオ投資(Portfolio Investment)から生じる収入(利子の支払など)について、グロスの支払総額に対して、支払者に源泉徴収義務を課して納税義務を負わせる課税方式です。
② 申告納付は、国内に恒久的施設(Permanent Establishment:PE)を有するなどして行う直接投資(Direct Investment)から生じる利益(事業所得など)について、居住者や内国法人と同様に、ネットの所得に対して、本人に申告納付義務を負わせる課税方式です。
⑵ 日本における非居住者に対する課税
日本の非居住者に対する所得税課税については、源泉徴収と申告納付の二つの方法を所得の種類によって折衷して採用しています。
⑶ 租税条約による修正
租税条約は、源泉地国の国内税法で定められる源泉徴収などの課税を軽減したり免除することがありますので、確認が必要となります。
4.租税条約
⑴ 日本の租税条約ネットワーク
上述のように、国境を越える国際的な経済活動が活発となる一方で、課税権は各国が独自に行使するため、課税における国際協調は重要です。
そのため各国は、①国際的二重課税を回避するため各国の課税権をどのように調整し制限するのか、②国際的な脱税や各国の税制の相違を利用する国際的租税回避をどう防止するかについて、どのような規定を設け各国間で情報交換を行うかを定めるため、他国との間で租税条約を締結してきました。
日本は、先進国との間では源泉地国課税を大きく制限する「OECDモデル条約」に沿った内容の租税条約を、発展途上国との間では源泉地国課税を多めに認める「国連モデル条約」に沿った租税条約を締結しています。
日本は2024(令和6)年5月1日現在、155か国・地域との間で86の租税条約等を締結しています(参考コラム:日本の税務当局はどのようにして日本居住者の海外資産を見つけて課税するのでしょうか)。
⑵ 租税条約と国内税法との関係
条約の効力は国内法に優先しますので、上述のように、日本の税法だけでなく租税条約の内容も確認する必要があります。
条約の締結権は内閣にありますが、事前もしくは事後の国会の承認が必要で、条約は誠実に遵守することが必要です。日本では、条約が批准、公布されれば国内的効力を有します。
しかし、条約の規定が日本国内で直接適用されるかについては様々な議論がなされています。
⑶ 日米租税条約と日米相続税条約
日本はアメリカとの間で、所得税について「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約(日米租税条約)」を、相続税等について「遺産、相続及び贈与に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアメリカ合衆国との間の条約(日米相続税条約)」を締結しています。
⑷ 租税執行の国家間協力
居住者や内国法人に対する課税権は国家に広い裁量が認められますが、海外資産への執行権は、国家主権尊重の観点から外国には及びません。
そのため、日本の国税庁職員が公権力を行使して外国で税務調査を行うことはできません。
租税条約上の情報交換、条約締結相手国との同時調査、外国税務当局との合意に基づく調査官の派遣など、あくまで国家間の協力に基づくことが必要となります。
以上、二重課税の回避について解説しました。二国間のご相談も、経験豊富な当事務所へまずはご相談ください。
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