例えば、長年日本に住むアメリカ市民が、日本とアメリカにある財産について遺言を作成したい場合、日本式の遺言書の作成は可能でしょうか。また、どのような点に注意が必要でしょうか。下記に詳しく見ていきます。
1.遺言の方式について
アメリカで遺言の方式に関する準拠法を決定する抵触法は州法ですので、州によって細かなところで内容は異なりますが、一般的に、①遺言が執行される州の法、②遺言が作成された地の法、③遺言作成時に遺言作成者が居住していた地の法、③相続開始時に遺言作成者が居住していた地の法のいずれかの方式を充たしていればよいとされています。
そこで、アメリカ市民であっても、日本で日本の方式に基づいて遺言を作成した場合、遺言が作成された地の法である日本法の方式を充たす限り、その遺言はアメリカでも有効な方式の遺言と認められるでしょう。
2.財産地ごとの遺言作成
日本の相続手続では、遺言の執行のために、口座の残っている全ての金融機関に対して遺言書の原本の提示が必要ですし、不動産登記のためにも遺言書の原本が必要です。
また、日本とアメリカの遺産について一通の日本語の遺言にまとめてしまうと、アメリカでのプロベートのために英訳を付す必要がありますので、日本の遺産に関する部分も英訳が必要となり、その内容が公開されます。
これらの事情から、日本の遺産については日本語を用い日本方式の遺言で、アメリカの遺産については財産所在地の州の方式で英語を用いて、信託や遺言を作成することがスムーズな手続のために望まれます。
3.外国籍者の日本式の遺言
公正証書遺言が望ましい
アメリカでも約半分の州で自筆遺言が認められています(アメリカ市民であれば、自筆の署名があれば押印も不要です)。
しかし公正証書遺言であれば、方式だけでなく記載の正確性や内容についても公証人が確認をしてくれますし、家庭裁判所での検認も不要となり安心です。そのため公正証書遺言を作成することが望まれます。
遺言の内容
家族関係: 相続手続では相続人の確定が必要となりますが、アメリカ市民には戸籍がなく、バイタルレコードと相続人全員による宣誓供述書を用いて相続人を確定することが必要です。
また、相続税総額の計算時には日本法に基づく法定相続人の情報が必要となりますし、遺贈ではなく相続をさせる遺言の執行では、(反致がない場合)本国法に基づく相続人の確定が必要です。そこで、被相続人の家族関係(名前、生年月日、続柄)を遺言に明記しておくことが望まれます。
氏名について: 外国籍者の場合でも、不動産登記申請の際に氏名をアルファベットなどの本国表記を用いて行うことはできず、カタカナ表記を用います。しかし、カタカナ表記が異なったり、ミドルネームがあるかどうかなど、同一性について疑義が出ないよう、事前に確認が必要となります。
相続税の連帯支払義務: 相続税の支払は相続人が連帯責任を負いますが、相続人の一部が外国在住の場合、相続税の納税義務を果たさず日本在住の相続人が納付をせざるを得なくなる状況が考えられます。
このような場合の事前対応として、相続税の納付があるまで遺言執行者の執行義務を緩和する方法や、相続税の納付を停止条件とする遺贈にすることが考えられます。
4.撤回について
外国で作成した遺言を日本の方式で撤回することも可能ですが、財産所在地ごとに遺言を作成している場合、撤回の範囲を明らかにしないと、無用な紛争を起こしかねません。
そこで、遺言を書き換える場合にも、撤回の範囲を明らかにする必要があります。
このように、外国人が日本式遺言を作成する場合の注意点は多く、スムーズな手続きのためにはしっかりとした準備が大事になります。
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