例えば、日本在住の一家のうち米国籍夫が亡くなり、妻と子が相続人となるケースにおいて、まず、どの国の法律が適用されるかが問題となりますが、日本居住のアメリカ市民の相続では、日本法によって手続きが進められることが多いでしょう。以下に詳しく見ていきます。
1.遺産分割はどの国の法律で行うか
実務上は反致という制度により、被相続人(亡くなった方)がアメリカ市民であっても、動産と日本にある不動産は日本法に基づいて包括承継され、相続人は遺産分割協議を日本法に基づいて行うことができるとされています。
そこで、相続人間で遺産分割協議がまとまらない場合の遺産分割調停や審判も、日本法に基づいて家事事件手続法により行うことになります。
また、法定相続人や法定相続分も日本法が適用されます。
2.アメリカ所在の不動産の相続手続
ただし、亡くなった米国籍夫が、アメリカに不動産を所有していた場合は注意が必要です。
アメリカ所在の不動産の相続手続については、現地の裁判所に専属管轄が認められており、日本における遺産分割審判がそのまま承認される訳ではありません。
この点、見解は様々ですが、現実問題としては、不動産の所有権移転登記にはその不動産所在の州で選任または登録された遺言執行者や遺産管理人によるDeed(譲渡証書)の作成が不可欠となります。
つまり、アメリカ所在の不動産については、現地(不動産所在地)の州法に基づくプロベート等の手続が必要となり、その手続においては日本の遺産分割審判の効果が考慮されることになるでしょう。
ただし、現地のプロベート裁判所の裁判官の考え方によるところもあり、絶対とは言えないので、アメリカのプロベート完了を待って日本で遺産分割審判手続を進めることも検討されます。
3.日本における遺産分割の流れ
日本では、相続人全員の協議により、裁判所の関与なく遺産分割協議を行うことができます。
相続人間で遺産分割協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に遺産分割の請求(遺産分割調停又は審判)の申立てをすることになります。
遺産分割の効果は相続開始の時に遡って効力が生じます。
4.遺産分割の国際裁判管轄
遺産分割調停の国際裁判管轄が日本の家庭裁判所に認められるのは、
① 調停を求める事項の訴訟事件又は家事審判事件について日本の裁判所が管轄権を有するとき
② 相手方の住所(住所がない場合や住所が知れない場合は居所など)が日本国内にあるとき
③ 当事者間に書面による管轄合意があるとき
となります。
また、遺産分割審判の国際裁判管轄は、次の場合に日本の家庭裁判所に認められます。
① 相続開始の時に被相続人の住所が日本国内にあるとき、住所がない又は住所が知れない場合にはその居所が日本国内にあるとき、居所がない又は居所が知れない場合には過去に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していた時を除く)
② 当事者に管轄合意があるとき
ですので、遺産が日本に所在するだけでは日本の裁判所に国際裁判管轄は認められませんが、被相続人が日本居住の場合、日本の家庭裁判所に国際裁判管轄が認められることになります。
5.まとめ
以上、見てきたように、日本居住のアメリカ市民が被相続人となる相続においては、遺産のうち①日本の動産、②アメリカの動産、③日本の不動産については、日本の法定相続分を基準に遺産分割協議を行うことになり、調停や審判の手続は日本の家庭裁判所で行うことになります。
④アメリカ所在の不動産については、現地(不動産所在地)の州法に基づくプロベート等の手続が必要となるでしょう。
このように、国際的な相続が発生すると、非常に複雑な検討が必要になり、また実際の手続においても煩雑な手続きや現地との調整・コミュニケーションが必要になるため、まずは専門家にご相談されることをお勧めいたします。
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