アメリカにも日本の遺留分制度に似た選択的相続分(Elective Share、 Forced Share)を認める州があります。
しかし、親や成人の子には選択的相続分は認められませんし、計算方法も異なります。
1.選択的相続分制度
選択的相続分とは、遺言が残されている場合に、相続人が、遺言に従って遺産を取得するか、又は遺言上の権利を放棄して被相続人の遺産に対する一定の持分を取得するかの選択権をいいます。
日本の遺留分侵害額請求と同様に、被相続人の財産形成に対する配偶者の寄与の清算と、生存配偶者の適切な扶養の維持が目的です。
夫婦別産制を採用する州は、ジョージア州を除いて、選択的相続分を生存配偶者に認めています。また、ルイジアナ州を除くアメリカ全州において、被相続人の成人の子や親に選択的相続分は認められていません。
選択的相続分の具体的な内容は州によって異なります。
(1)申立期間
選択的相続分の請求は、州によって異なりますが、被相続人の死亡日から9か月以内、又は被相続人の遺言の検認から6か月以内のいずれか遅い方の期限内に、裁判所への申立てと人格代表者への通知が必要です。
なお、裁判所に対する期間延長の申立ても可能です。
(2)非居住者の選択的相続権の準拠法
非居住生存配偶者が、アメリカのある州に残る遺産に対して選択的相続分を取得するかについては、原則は、被相続人の死亡時のドミサイル地法が適用される法律となるでしょう。
ただし、不動産については、不動産所在地法が適用される可能性もあります。
いずれにせよ、現地の法律をしっかり調べる必要があります。
2.その他の相続における家族の保護のための制度
アメリカには、選択的相続分に加え、配偶者や家族を保護する制度があります。
夫婦共有財産制(夫婦が婚姻期間中に取得した財産は、夫婦の相互努力によって得たものであるという理念に基づき、婚姻期間中に取得した財産はすべて夫婦の共有財産となる制度。日本は夫婦別産制を採用しているため、婚姻期間中に夫婦の一方が自身の名義で取得した財産は、その単独所有となります)を採用する州では、生存配偶者は共有財産の持分の2分の1の取得が保護されていることになります。
つまり、生存配偶者が有していた2分の1の持分は相続と関係なく当然に清算され生存配偶者の単独帰属となるので、この点で厚く保護されていると言えます。
(1)家産(Homestead)
日本では、被相続人の配偶者に、短期間の配偶者短期居住権が認められます。
これと同じように、アメリカのほぼすべての州で、生存配偶者と未成年の子らに、家族住居(又は家族農場)をその生存中占有できる権利(Homestead)が与えられています。
この権利は、原則として生存配偶者に認められる他の権利とは別に、それらに加えて認められます。
(2)免除財産(Exempt Property)
生存配偶者(生存配偶者がいない場合には被相続人の子)は一定の金額まで、遺産から例えば家財道具、自動車、服飾品、家電、身の回り品を取得できます。
これも、家産手当や家族手当、相続によって生存配偶者が受ける権利とは別に、それらに加えて認められることになります。
なお、家産手当や家族手当と異なり、成人の子にも認められます。
(3)家族手当(Family Allowance)
州によっては、相続開始から1年間またはプロベート期間中、遺産から生存配偶者(と未成熟子)に相当の扶養料(Maintenance and Support)を付与する権限がプロベート裁判所に認められます。
以上のように、アメリカにも日本の遺留分制度に似た選択的相続分がありますが、具体的な内容は州によって異なりますので、選択的相続分についてお困りの方は、まずは専門家にご相談されることをお勧めします。
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