国際相続コラム

column

アメリカの信託制度について教えてください

  • エステートプランニング
  • 相続コラム

信託は州法に基づいて組成されますが、多くの州で統一信託法典(Uniform Trust Code, UTC)が採用されています。
プロベート対策で多用される撤回可能信託は、グランター・トラストとして委託者に所得税が課税されます。相続時には、信託の評価額が遺産総額に含まれます。信託の受託者は、受益者の死亡による受益権の移転に伴う税金を申告・納税する義務を負います。

1.アメリカの撤回可能信託

アメリカでは、統一州法委員会全国会議が、アメリカ法曹協会などの協力を得て、2000(平成12)年8月に「統一信託法典(Uniform Trust Code, UTC)」を承認し、現在36州がUTCを採用しています。

UTC採用州
アラバマ,アリゾナ,アーカンソー,コロラド,コネチカット,コロンビア特別区,フロリダ,ハワイ,イリノイ,カンザス,ケンタッキー,メイン,メリーランド,マサチューセッツ,ミシガン,ミネソタ,ミシシッピ,ミズーリ,モンタナ,ネブラスカ,ニューハンプシャー,ニュージャージー,ニューメキシコ,ノースカロライナ,ノースダコタ,オハイオ,オレゴン,ペンシルバニア,サウスカロライナ,テネシー,ユタ,バーモント,バージニア,ウェストバージニア,ウィスコンシン,ワイオミング

 

アメリカではプロベート回避のために撤回可能生前信託(Revocable Inter Vivos Trust)が利用されています。

信託には遺言にはない多くのメリットがありますので、アメリカの相続対策では活用されています。

【メリット】

・撤回可能信託は、委託者が撤回しないまま死亡したときは撤回不能信託となり、受託者は、信託条項に従って信託財産を分配・処分することになるため、プロベートの対象となりません

撤回可能生前信託は、設定者の生存中はいつでも撤回が可能で修正も容易です。

遺言ではプロベートを回避できませんが、信託を使えばプロベートを回避できるため、費用の軽減とプライバシーの確保が可能です。

・遺言では相続時点の財産の処分しか扱えないのに対し、信託では生前から死後に至るまで、受託者を通じて長期間にわたり継続した財産管理が可能となります。

・遺言は作成時の遺言能力について争われやすいですが、信託は生前から継続した財産管理を行っているので、このような争いが生じる可能性は低いです。

・一部の州では選択的相続分を回避することができます。

 

撤回可能信託は遺言の代替として利用されるため、撤回可能信託の設定、変更、撤回、財産の追加などには遺言作成と同じ能力が要求されます。

変更及び撤回は、信託条項が定める方法が明示的に唯一であるとされていない限り、遺言や事実行為で行うことができます。

なお、UTCでは撤回可能信託が原則とされ、信託設定後に取得して信託に組み込まれていない遺産もすべて信託財産に追加する遺言(Pour-over Will)と併用されます。

2.国際裁判管轄と準拠法

UTCでは、信託の管理における裁判所の関与(役割、裁判管轄権、事物管轄権、土地管轄(裁判籍))について定めています。

信託の裁判管轄について
202条 受託者及び受益者に対する裁判管轄権

⒜ 受託者が、主たる管理地を当州内に有する信託の受託者たる地位を引き受け、又は、主たる管理地を当州に移転した場合、それによって、当該信託に関するあらゆる事柄につき、受託者は、当州の裁判所の人的管轄に服する。

⒜ 当州内に主たる管轄地を有する信託の受益者は、当該信託に関する自らの受益権につき、当州の裁判所の管轄権に服する。信託からの利益分配を受け取った受取人は、それによって、当該信託に関するあらゆる事柄につき、当州の裁判所の人的管轄権に服する。

⒝ 本条は、受託者、受益者、又は当該信託からのその他の財産受取人に対する裁判管轄権を取得する他の方法を排除するものではない。

「主たる管理地」とは、原則として、受託者の主たる事務所(Principal Place of Business)、受託者の居住地、又は信託管理の全て又は一部が行われる地のいずれかから、委託者が信託条項において指定した地を意味します。

受託者は主たる管理地を他州や外国に変更することが可能です。

 

信託の準拠法について
107条 準拠法

信託条項の意味と効力は、以下の法律に基づいて決定される。

⑴ 争点と最も重要な関係を有する法域の強い公序に反しない限り、信託条項において指定された法域の法律:又は

⑵ 信託情報において適用すべき法の指定がなされていない場合には、争点と最も重要な関係を有する法域の法律

アメリカで信託を設定する場合、通常、委託者は裁判管轄も準拠法も定めますので、信託条項に基づくことになります。

 

以上のように、アメリカにおいても信託は財産管理と相続計画に非常に便利な仕組みといえますが、日本にはない制度があったり、また国際的な要素が絡むことでより複雑となるため、事前にしっかりとした専門家のアドバイスを受けて設定することが重要です。

お問い合わせはこちらからどうぞ。

 

  • Twitter
  • LINE
  • hatena
  • Facebook

関連記事

アーカイブ

Contact お問い合わせ