アメリカの合有財産(ジョイント・テナンシー)や共同名義口座(ジョイント・アカウント)は、取得時と相続時の課税関係が問題となりますが、日本とアメリカで考え方にそれほど大きな違いはありません。
もっとも、アメリカには高額な基礎控除や、アメリカ市民配偶者への無制限の配偶者控除があるため、税額には大きな差が発生します。
1.アメリカの合有不動産(ジョイント・テナンシー)
合有不動産(ジョイント・テナンシー)とは
一つの不動産を2名以上の者が共同所有する不動産権で、権利者のうち一人が死亡した場合に、その合有持分は相続財産とならず(遺言の対象にもなりません)、自動的に生存する他の共有者に移転する生存者受取権(Right of Survivorship)が認められる共有不動産のことをいいます。なお、日本ではこのような権利は認められていません。
では、日本居住の日本人夫婦がアメリカで不動産をジョイント・テナンシーとして購入した場合、どのような課税関係になるでしょうか?
このようなケースでは、日本でもアメリカでも課税の対象となり得るので、以下に詳しく検討してみたいと思います。
アメリカにおける課税
購入時の課税
アメリカに所在する不動産を購入した際に、それを夫婦で合有や夫婦全部保有(Tenancy by the Entirety)にした場合、その持分は均等になります。
そのため、拠出した購入資金の割合と不動産の持分の割合に不均衡がある場合、その不均衡部分については、夫婦間で贈与があったとみなされ、連邦贈与税の税対象となります。
もっとも、日本居住者間の贈与はアメリカ外で資金の贈与がされたと考えられるため、アメリカでは贈与税の対象とならないでしょう。
また、仮に、夫婦がアメリカ在住であっても、アメリカでは高額の基礎控除額が認められますし、さらに夫婦間の贈与で受贈者がアメリカ市民である場合、無制限の配偶者控除によって課税がなされません。
相続時の課税
夫婦合有財産について相続が発生した場合、誰が出捐したかに関係なく、財産の2分の1の価額が遺産総額に算入され、連邦遺産税の課税対象となります。
これは、合有財産創設時に出資額の不均衡について連邦贈与税が既に課せられていると考えるためです。
日本における課税
購入時の課税
日本では対価の授受なく不動産等の名義変更があった場合、原則として贈与があったと取り扱われますので、合有や夫婦全部保有により半分の持分を取得したにもかかわらず、その分の出資をしていない場合、贈与税の課税対象となります。
この点、カリフォルニアの不動産を、夫のみが出資して夫婦合有名義で取得したケースで、相続税法9条のみなし贈与の規定により、不動産購入代金の2分の1の金員を妻が夫から贈与により取得したものとみなした判決があります。
昨今では、海外の不動産登記の内容を日本からインターネット等を通じて確認することは容易になっていますので、上記事例のように、海外不動産購入時に資金拠出割合が異なる者を合有共有者に加えると、たとえ夫婦での合有であったとしても、資金拠出者からのみなし贈与があったとみなされ、日本で高額の贈与税の課税対象となり得ますので注意が必要です。
相続時の課税
被相続人の合有持分は相続財産とならず、自動的に生存する他の共有者に移転します。この被相続人の合有持分の取得は、「相続又は遺贈により取得した財産」ではなく、「対価を支払わないで利益を受けた」場合に該当し、みなし相続財産として、(被相続人の持分である2分の1が)相続税の課税対象となります。
この点、国税庁のホームページに質疑応答事例が紹介されています。
2.アメリカの共同名義口座(ジョイント・アカウント)
共同名義口座(ジョイント・アカウント)とは
一つの口座を複数人の名義で保有するもので、口座の名義人であればだれでも資金を引き出すことが出来ます。
生存者受取権(Right of Survivorship)付きの共同名義口座であれば、共同名義人の一人が死亡した場合、その権利は自動的に他の共同名義人に移転するため、プロベートの対象にはなりません。
他方、生存者受取権が付いていない共同名義口座は死亡した共同名義人の遺産となり、原則としてプロベートが必要になります。
アメリカにおける課税
口座開設時、入金時の課税関係
共同名義口座の資金は、各自の拠出額の割合に応じて各共同名義人に帰属します。そこで、共同口座開設時や入金時には権利の移転は発生せず、連邦贈与税の課税対象にはなりません。
もっとも、州によっては、夫婦による共同名義口座は、推定を覆す証拠がない限り夫婦双方の拠出額は同額と推定されます。
出金時の課税関係
共同名義口座への資金拠出額以上の金額を引き出した時点で贈与があったとされ、連邦贈与税の対象となります。
相続時の遺産税
生存者受取権付の共同名義口座の権利は、プロベートの対象となる相続財産には含まれませんが、日本のみなし相続財産と同じように、拠出額を超える預金部分については相続があったものとされて総遺産額に算入され、連邦遺産税の課税対象となります。
日本における課税
口座開設時、入金時の課税関係
夫婦共同名義口座に、例えば夫のみが資金を拠出した場合でも、その口座の実質的な管理者が夫のみである場合は、日本でも原則として贈与税の課税対象とはなりません。
出金時の課税関係
夫のみが資金を拠出した夫婦共同名義口座から、妻が資金を引き出しても、生活費として引き出した場合は贈与税の非課税財産となり、贈与税の課税対象とはなりません。
しかし、生活費を超える金額を引き出した場合、贈与税の課税対象となり得ます。
相続時の課税関係
上述のように、生存者受取権のある共同名義口座の場合、アメリカではプロベートの対象となる相続財産に含まれず、「相続又は遺贈により取得した財産」に該当しませんが、上の合有持分と同様、「対価を支払わないで利益を受けた」として、みなし相続財産として相続税が課税されます。
このように、アメリカと日本では、同じように贈与税や相続税の課税がなされますが、基礎控除額や配偶者控除額が日本とアメリカでは大きく異なりますので、日本で思ってもみなかった課税がなされないよう、充分な検討が必要となります。
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