国際相続コラム

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日本の税務当局はどのようにして日本居住者の海外資産を見つけて課税するのでしょうか

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近年、投資や取引のグローバル化により、外国に資産を保有する個人・企業も珍しくありません。

国税庁は、国際課税の取組の現状と今後の方向を示す「国際戦略トータルプラン」を公表し,海外への資産隠しや租税回避行為に対して積極的に取り組んでいます。

国際的な脱税及び租税回避への関心の高まりを受け、G20やOECDにおいても、各国税務当局間での協力・連携を一層推進していくこととしており、世界各国において富裕層に対する姿勢は厳しくなり続けています。

脱税は犯罪ですので、注意が必要です。

1.日本の税務当局の対応

個人投資家の海外投資や企業の海外取引が増加するなか、富裕層や企業による外国への資産隠しや、各国の税制・租税条約の違いを利用した租税回避行為に対して、国税庁は厳しい態度を取り始めています。

2016(平成28)年10月には「国際戦略トータルプラン─国際課税の取組の現状と今後の方向─」を公表して、国際課税を専門とする人員や部署の一層の整備・強化を行い、納税者には様々な情報提供を義務付け、外国の政府機関とも連携を取るなど、情報の収集・分析体制を整えました。

一昔前のように外国に資産を移しさえすれば簡単に脱税ができた時代は終わったといえます。

2.情報収集のために採用されている制度

「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」に基づく各制度として、下記の制度などがあります。

⑴ 海外送金等に関する調査制度

1回あたり100万円を超える外国からの入金もしくは海外送金がある場合、金融機関に対して、送金者や受領者の氏名、金額、年月日、目的などの情報を記載した「国外送金等調書」を、金融機関の営業所等のある所轄税務署長に提出させる制度です。

外国からの入金時や、海外に送金をする際に金融機関から詳細な情報を尋ねられるのは、金融機関にこの提出義務があるためです。

⑵ 国外証券移管等調書制度

国内から国外の証券口座に有価証券を移したり、国外から国内の証券口座に有価証券を受け入れる場合、証券会社に対して、移管者の氏名や有価証券の種類及び銘柄などの情報を記載した「国外証券移管等調書」を、証券会社の営業所等の所在地の所轄税務署長に提出させる制度です。

⑶ 国外財産調書制度

日本の居住者(非永住者を除く)で、その年の12月31日時点で価額の合計額が5,000万円を超える国外財産(負債を控除することはできません)を有する場合には、その国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した「国外財産調書」を翌年の6月30日までに所轄の税務署に提出しなければなりません。

虚偽の国外財産調書を提出した場合や、正当な理由なく国外財産調書を提出しなかった場合には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられることがあります。

2019(令和元)年11月に、京都市の会社社長が、タイにおける取引に関連した所得税を脱税するとともに、香港の口座につき国外財産調書を提出しなかったとして、所得税法違反と国外送金等調書法違反の疑いで京都地検に告発され、大きく報道されました。

⑷ 財産債務調書制度

次の①または②のいずれかに該当する方は、保有する財産の種類、数量及び価額並びに債務の金額その他必要な事項を記載した財産債務調書を、その年の翌年の6月30日までに所得税納税地の所轄税務署に提出しなければなりません。

①所得税等の確定申告書を提出しなければならない者で、その年の退職所得を除く各種所得金額の合計額が2,000万円を超え、かつ、その年の12月31日において、3億円以上の財産、又は1億円以上の国外転出特例対象財産を有する場合

②その年の12月31日においてその価額の合計額が10億円以上の財産を有する居住者

3.海外からの情報収集制度

⑴ 租税条約等に基づく情報交換

日本は2024年5月1日現在、155か国・地域との間で租税条約ネットワークを築いており、租税条約、情報交換協定、税務行政執行共助条約等に基づいて、各国との間で情報交換を行っています。

この情報交換には以下の3つの形態があります。

①要請に基づく情報交換

個別の納税者に対する調査において、国内で入手できる情報だけでは事実関係を十分に解明できない場合に、必要な情報の収集・提供を外国税務当局に要請しています。

②自発的情報交換

国際協力等の観点から、自国の納税者に対する調査等の際に入手した情報で外国税務当局にとって有益と認められる情報を自発的に提供しています。

③自動的情報交換

法定調書から把握した非居住者等への支払等(利子、配当、不動産賃貸料、無形資産の使用料、給与・報酬、株式の譲受対価等)についての情報を、支払国の税務当局から受領国の税務当局へ一括して送付するもの

⑵ 共通報告基準(CRS)に基づく自動情報交換制度

経済協力開発機構(OECD)が策定した共通報告基準(CRS: Common Reporting Standard)に基づき、締結国の税務当局が、海外居住者の口座情報を自動的に交換する制度です(アメリカはこれに含まれていません)。

2022(令和4)年度は、日本居住者に係るCRS情報を、95か国・地域の外国税務当局から約253万件受領し、外国居住者に係るCRS情報を78か国・地域の税務当局に約53万件提供しています。

令和4事務年度 租税条約等に基づく情報交換事績の概要

日本居住者の海外口座の情報は、日本の税務当局のデータベースに蓄えられるようになっており、近時の税務調査では、海外預金に関する詳しい情報を入手した上で行われることも増えているようです。

日本は、「租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律」に基づき、租税の徴求の共助、租税条約に基づく情報提供を行っています。

 

このように、世界各国において資産移転に対する税制の整備は強化されてきており、海外資産を含むエステートプランニングには専門家の関与が欠かせなくなってきています。お困りごとは経験豊富な弊事務所へ、まずはお気軽にご相談ください。

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