信託とは、受託者が、委託者の指示に基づいて、委託者から移転された財産を受益者のために管理する仕組みです。信託法改正によって、日本でも民事信託(家族信託)が利用されるようになってきました。
また、最近では信託もグローバル化しており、適用される準拠法や国際裁判管轄が問題となります。
1.信託とは
信託とは、ある人(委託者)が自分の財産を別の人(受託者)に法的に移し、受託者がその財産を第三者(受益者)の利益のために管理する仕組みです。これにより、委託者は自分の意志に基づいて、財産を効果的に管理・運用してもらうことができます。信託のもとでは、財産は受託者の名義に書き換えられ、委託者の財産ではなくなります。
受託者は、信託契約等に記載された委託者の意思に従って、信託財産の管理・運用を行いますが、信託財産は受託者の財産とは区別されます。受託者による信託財産の管理・運用による利益は、受益者に帰属することになります。
2.日本の民事信託(家族信託)
⑴ 注目を浴びる家族信託とそのメリット
家族の一員が信託の引受けを行う家族信託は、生前の財産関係を規律する成年後見制度と死後の財産関係を規律する相続制度の隙間を埋める制度として注目を浴びています。
たとえば、後見人は、本人の金融資産を使って本人所有不動産の大規模修繕を行ったり、合理的な相続税対策を行うことはできませんが、信託の受託者は、本人の希望・方針に沿って与えられた権限に基づいて、積極的で柔軟な財産管理や資産運用、そして相続税対策を行うことも可能となります。
また、被相続人の死後の財産管理について遺言で定めることは困難ですが、信託ではたとえば障害のある子の生涯にわたる財産管理や生活資金の支援などを受託者に指示して委託することが可能です。
⑵ 信託の設定方法
信託を設定する法律行為を信託行為といいます。日本では、信託契約、遺言(遺言信託)、公正証書その他の書面又は電磁的記録による信託宣言(自己信託)が認められています。
⑶ 信託の種類
委託者と受託者が同一である自己信託(信託宣言による)や、委託者と受益者が同一である自益信託も可能で、税制上の理由から、家族信託では自益信託が最も一般的に用いられています。
なお、受託者と受益者が同一となった状態が1年間継続すると信託は終了します。
⑷ 身上監護
信託では、任意後見契約のように、身上監護を信託事務の中に含めることはできません。
⑸ 信託財産の隔離性(倒産隔離)
信託財産は、委託者から受託者に法的に財産上の権利が移転しているため、詐害行為が認められるなど一定の場合を除き、委託者の債権者は信託財産に対して強制執行ができません。
また信託財産は、受託者の固有財産とも分離されているため、受託者の債権者は信託財産に強制執行をすることはできず、受託者が破産した場合でも、信託財産は破産財団に属しません(倒産隔離機能)。
3.信託と相続
⑴ 委託者の死亡
信託財産は受託者に移転しているため、委託者(被相続人)の相続財産には含まれません。
⑵ 受託者の死亡
受託者の固有財産と信託財産は分離しており、受託者(被相続人)の相続財産にも含まれません。
⑶ 受益者の死亡
受益者の死亡により当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定め(受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定めを含む)のある信託の設定も可能です。
このように受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する信託を、後継ぎ遺贈型受益者連続信託といいます。
4.国際的な信託と国際相続
グローバル化した世の中では、①外国で組成された信託の当事者に日本人がなったり、②日本で組成された信託に海外資産が含まれることが増えてきました。
委託者、受託者、受益者の権限や、信託の変更や終了は、適用される国の信託法によって大きく異なります。
このため、信託の当事者が異なる国籍を持っていたり、信託財産が複数の国にまたがる場合、各国の法律の違いにより複雑な法的問題が生じる可能性があります。
ア 準拠法
法の適用に関する通則法は、信託に関する準拠法の規定を持ちません。そこで、信託契約による信託の成立や有効性には「法律行為」に関する規定が適用され、当事者が選択した地の法が準拠法になります。
準拠法の指定がない場合、信託行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法が準拠法となります。信託財産所在地や信託を管理する受託者の所在地が最密接関係地になることが多いと思われます。
イ 国際裁判管轄
民事訴訟法には信託に関する国際裁判管轄の規定は置かれていません。そこで専属管轄の定めがない場合は、被告の住所地、財産所在地、義務履行地など広く国際裁判管轄が認められます。
以上のように、信託は財産管理と相続計画に非常に便利な仕組みといえますが、国際的な要素が絡んでくると権限等が大きく異なってきますので、事前にしっかりとした専門家のアドバイスを受けて設定することが重要です。
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