国際相続コラム

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アメリカの信託税制について教えてください

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信託は州法に基づいて組成されますが、多くの州で統一信託法典(Uniform Trust Code、UTC)が採用されています。
プロベート対策で多用される撤回可能信託は、グランター・トラストとして委託者に所得税が課税されます。相続時には、信託の評価額が遺産総額に含まれます。

信託の受託者は、受益者の死亡による受益権の移転に伴う税金を申告・納税する義務を負います。

1.アメリカの信託税制

⑴ 信託税制の概要

信託期間中に信託財産から生じる利益は、原則として、信託に対して連邦所得税が課税されます。もっとも、信託の利益が受益権者へ分配される場合、後述のようにその分配額は信託の課税所得から控除され、受益権者の課税所得に加えられます。

一方、信託財産の元本の受益権者への分配は、連邦所得税の対象にはならず、原則として信託への移転時に連邦贈与税、連邦遺産税の課税対象となります。

⑵ 所得税

ア 信託課税の対象となる信託(課税信託)として扱われる信託

課税信託として扱われる信託は、毎暦年、個人の所得計算と同様の損益計算を行い、遺産財団と同様、独立した納税主体として連邦所得税が課税されます。

所得税の計算方法は個人の納税義務者と大きく変わりません。

受益権者への分配額は、課税所得から控除することができます(所得分配額控除:Income Distribution Deduction)。

一方、受益権者への分配には連邦所得税が課税されますので、この場合、信託は導管としての役割を果たすことになります。

信託に適用される税率は、資本純利益には分離軽減税率(0%、15%、20%)が適用されます。それ以外の所得については個人納税者と同じ税率が適用されますが、各税率が適用される所得枠は個人よりも低く設定されていますので、実効税率は個人よりも高くなります。

イ 課税信託として扱われない信託(委託者課税信託:Grantor Trust)

信託設定者(委託者)又はその配偶者が、信託設定後も信託財産や収益に対して一定の支配・管理権を留保している信託を、委託者課税信託(Grantor Trust)といいます。委託者課税信託の所得は委託者の所得として課税されます。

委託者課税信託に該当するかどうかは課税関係に大きな影響を与えますので、委託者課税信託に該当する要件は詳細に定められています。

撤回可能信託は、委託者に信託撤回権が留保されており、信託に対する支配権を留保していることから、通常、委託者課税信託に該当します。そこで、撤回可能信託の所得は委託者の所得として連邦所得税を計算します。

⑶ 遺産税、贈与税

ア 撤回可能信託と遺産税

遺産総額とは、被相続人の死亡時において被相続人に帰属する全ての財産の価値をいいます。これには以下を含みますので、撤回可能信託の評価額は、通常、遺産総額に含まれます。

・留保生涯権付移転(Transfer with Retained Estate)

被相続人が信託などによって移転させた財産に対して、所有、享受、収益受益権又はその権利を有する者を指名する権利を、被相続人が生涯にわたって留保する場合、その財産は被相続人の遺産総額に含まれます。

・死亡時に発効する移転(Transfer Taking Effect at Death)

被相続人より長生きすることで財産の所有又は享受をする権利を得られ、かつ被相続人が財産価額の5%を超える復帰権を留保する場合、その財産は被相続人の遺産総額に含まれます。遺言代用信託がこれに該当します。

・撤回可能移転(Revocable Transfers)

被相続人が信託などによって生前に移転させた財産に対して、被相続人らが死亡時において変更、修正、撤回、終了する権限を有する場合、財産は被相続人の遺産総額に含まれます。

イ 撤回不能信託(税制適格信託)と贈与税

税制適格要件を充たす信託は、信託財産の全額でなく委託者が留保した権利の評価額を控除した残額に対して贈与税が課税されます。

たとえば、 委託者定期金留保信託(Grantor Retained Annuity Trust:GRAT)は、信託財産の価額から委託者が留保した定期金を受領する権利の評価額を控除した残額に対して課税されますし、委託者ユニットラスト権留保信託(Grantor Retained Unitrust:GRUT)は、信託財産の価額から委託者が留保したユニットラスト権の評価額を控除した残額に課税されます。

このように、税制上の一定の要件を充たす信託は課税対象を限定する効果があるため、遺産税や贈与税のタックスプランニングに用いられます。

ウ QDOT(適格家族信託)

配偶者がアメリカ市民でない場合、無制限の配偶者控除は認められません。しかし配偶者の遺産が適格家族信託(Qualified Domestic Trust:QDOT)に組み込まれる場合、配偶者控除の適用を受けたのと同じ効果が得られます。

適格家族信託は、少なくとも受託者の一人はアメリカ市民もしくはアメリカ法人である必要があり、信託財産元本が分配される場合は、連邦遺産税の源泉徴収が受託者によってなされます(もっとも、生存配偶者や生存配偶者が扶養義務を持つ人の健康、教育、扶養のため緊急かつ相当な経済的必要性がある場合、源泉徴収の対象となりません)。

また、生存配偶者は生存中、QDOTから生じる収益の分配を受け取ることができ、これは連邦所得税の課税対象となります。

信託財産が200万ドルを超える場合、アメリカの金融機関を受託者にするか、受託者が信託財産の65%に相当する保証金をIRSに支払うか、同額のアメリカの金融機関若しくは外国金融機関のアメリカ支店の撤回不能信用状を準備する必要があります。

生存配偶者が死亡して相続が発生した場合、繰り延べられていた連邦遺産税が、信託財産に対して課税されます。

2.日本におけるアメリカの信託に関する課税

日本でのアメリカの信託に関する課税は、まず準拠法となる州法に照らして信託の法律関係を確定し、それが日本の信託法に基づけばどのような内容となるかを確定して、日本の所得税法や相続税法に基づく納税義務を検討することになります。

仮にアメリカでは信託を用いた遺産税の節税が可能となっても、日本の相続税の納税義務が発生する場合、相続税の計算は日本の相続税法に基づいて行われるため節税効果は望めず、かえって納税資金の確保に支障が生じるなど、デメリットが大きくなる可能性もあります。

このようなことがあるため、日本で課税される外国信託については、現地の税法に基づく税金対策だけでなく、日本の所得税法、相続税法に基づけばどのように課税されるかを、事前に検討することが必要となります。

⑴ 所得税

アメリカの信託の受益者が日本の受益者等課税信託の要件に該当する場合、受託者は、信託財産の収益の計算書等を、毎年1月31日までに、受託者の住所地の税務署に提出する必要があります。また、信託の収益や費用は、受益者の収益や損失とみなして所得税が課税されることになります。受益者等が存在しない信託の場合は、法人税が課税されます。

⑵ 相続税・贈与税

委託者と受益者等が同一である信託(自益信託)である場合を除き、受託者は、信託設定時、受益者等変更時、信託終了時に、信託に関する受益者別の調書の提出義務を負っています。

日本では、適正な対価を負担せずに信託受益者となる場合、その受益者は信託効力発生時に、信託に関する権利を信託委託者から贈与・遺贈により取得したとみなされ、既に受益者がいる場合は、その信託受益者から贈与・遺贈により権利を取得したとみなされ課税されます。アメリカの信託に関する相続税・贈与税の課税は、収益受益権や元本受益権をどのように認識・評価するかによって大きく変わり得ます。

 

以上のように、外国信託の受託者になった場合等における申告納付については非常に複雑となるため、現地専門家の協力などは欠かせません。外国信託のお悩みごとは、ネットワーク豊富な当事務所へまずはご相談ください。

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