国際相続コラム

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アメリカの後見制度がどのようなものか教えてください

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アメリカにも、判断能力が不十分となった場合に備える制度として、日本と同様に成年後見制度や信託制度があります。

以下では、それら日米の制度の紹介と、アメリカで選任された成年後見人が日本で権限を持つのかも解説します。

1.日本の制度

判断能力が不十分となった場合に備える制度には以下のようなものがあります。成年後見制度は大きく分けると、法定後見制度と任意後見制度があります。

⑴ 法定後見制度

法定後見制度は、家庭裁判所が成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)を選任する制度です。

このうち成年後見人には2016(平成28)年民法改正により、成年被後見人の死後、①相続財産の保存行為、②相続財産に属する債務の弁済、③死体の火葬・埋葬契約や相続財産全体の保存行為など、今まで取扱いが難しかった行為の権限が認められるようになりました。

⑵ 任意後見制度

任意後見制度では「任意後見契約に関する法律」(以下「任意後見契約法」といいます)に基づいて、判断能力低下前に、任意後見人予定者との間で公正証書により任意後見契約を締結します。つまり、後見人になる方をご自身の意向で選ぶことができます。そして、判断能力が不十分になった時に、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで任意後見契約が発効する制度です。

⑶ 死後事務委任契約

死後事務委任契約とは、本人の生存中に、自身の死後の葬儀・埋葬手続や各種サービスの解約などの代理権を第三者に与えて委託する準委任契約です。「委任契約」は当事者の一方の死亡によって終了するのが原則ですが、委任者の死亡によって委任契約を終了させない旨の合意をすることが可能とされています。

⑷ 医療行為に関する同意

医師が患者に身体侵襲を伴う医療行為を行うには患者本人の同意が必要です。患者が意思表示をできない場合、実務上は、配偶者や保護者の同意に基づいて医療行為を行い、同意によって刑事上も民事上も違法とはされないと考えられています。

なお、成年後見人等の権限には、このような身体処分の代行決定権は一切含まれないとされています。

⑸ 家族信託

信託の受託者は、信託設定後に委託者が判断能力を失っても、信託財産の管理権限を失いません。そして、法定後見人や任意後見人と異なり、家族信託の受託者は、積極的で柔軟な財産管理や資産運用、そして相続税対策を行うこともできるため、近時、多用されています。

2.アメリカの制度

⑴ アメリカの法定成年後見制度の概要

アメリカにも1960年代から成年後見制度の統一法はありましたが、2017(平成29)年に成年後見その他の保護の仕組みに関する統一州法(UGCOPAA:Uniform Guardianship, Conservatorship,and Other Protective Arrangements Act)が制定されました。

UGCOPAA上、被後見人の医療や介護などの人身に関するケアを担当するのがGuardian、財産管理を行うのがConservatorと呼称されています。

アメリカの後見人は、日本と異なり、生命に関する決定を行ったり、管理する財産を投資に利用することが認められていたりする点で大きく異なります。

ただし、成年後見制度は被後見人から自己決定権を奪う重大な決定が行われるものであること、後見人の選任には高額なコストもかかるため、アメリカでは、法定後見制度の利用は後述するプランニングによりなるべく回避すべきと基本的に考えられています。

以下、主にUGCOPAAに基づいて説明します。

ア 申請者(Petitioner)

日本では成年後見の申立権者は法律により限定されていますが、アメリカの多くの州では本人の近しい親族だけでなく、友人、隣人、病院などの法人も申請が可能な規定となっています。

イ 後見人(Guardian,Conservator)

日本でもNPO法人や社会福祉法人が成年後見人になることができますが、アメリカの一部の州でも法人が後見人になることが認められています。

また、後述の通り、アメリカでは後見人は生命に関する決定を行わなければならない場合もあり、こうした場合に備え、公的後見人(Public Guardian)の制度を設けている州もあります。財産管理を行う後見人として銀行が選任される場合もあるようです。

ウ 選任手続

後見人選任の申請が行われたことは被後見人(本人)にも必ず裁判所から通知が行われ、被後見人はそれに対して異議を述べることができます。後見人の選任は被後見人の能力に関する重大な決定ですので、被後見人の意見を聴く聴聞手続があり、被後見人に弁護士(訴訟のための弁護士:Guardian AdLitem)が必要に応じて付されます。また、裁判所の調査員(Court Visitor)による被後見人の心身、財産の調査が行われることも多いようです。

エ 後見人の権限と義務

後見人の権限は、主に被後見人の人身に関する決定と財産管理に関する決定に分けることができ、一方のみの権限を有する場合もあれば、双方の権限を有する場合もあります。

また、被後見人の能力に応じてかなり広い範囲で権限が認められる後見人もいれば、日本の保佐人や補助人のように限定的な権限のみを有する後見人もいます。

人身に関する後見人は、被後見人の生活の場(老人施設への入居等)を決定する権限だけでなく、日本の成年後見人と異なり終末医療の中止等の生命に関わる決定を行う権限も認められています。もっとも、これらの決定を行う前に裁判所の許可を得る必要がある州もあります。

後見人は、被後見人の財産を管理し、そこから生じる収益をも管理し、支払も適宜行う権限を有しています。日本の成年後見人と大きく異なるのは、アメリカの後見人は被後見人の資産を用いて投資を行うことが基本的に認められている点です。

ただし、後見人は、信託の受託者と同じく、被後見人の財産管理・運用に関して信認義務(Fiduciary Duty)を負っており、重大な信認義務違反に対しては懲罰的損害賠償が認められることもあります。

このような義務違反に備え、後見人に事前に債務保証証書(Bond)の提出を求める場合もあります。

⑵ 持続的代理権(Durable Power of Attorney)

前述の通り、成年後見制度はやむを得ず利用するものとアメリカでは捉えられており、そうならないように①老後の医療と介護、②財産管理に関してプランニングを行っておくことが一般的となっています。

持続的代理権(Durable Power of Attorney)は、事故や病気などで自らに対する医療行為や財産管理などに関して自己決定が行えなくなった場合に備え、これらの事項について自身に代わって決定をする権限をゆだねる代理人を指定しておくものです。

⑶ 事前指示書(Advance Health Care Directive)

事前指示書(Advance Health Care Directive)は、将来自らが判断能力を失った際に自身に行われる医療行為に対する意向を前もって意思表示しておくものであり、成年後見制度の利用を予め回避する手段の一つです。なお、日本にはこのような制度は整備されていません。

この意思表示の内容には、万一の時に自身に代わって医療行為についての意思決定を行う代理人を指名するもの(代理人指示:Proxy Directive)と希望する医療行為の内容を指示するもの(内容的指示:Substantive Directive)があります。

⑷ その他のプランニング(信託等)

上記の他には、財産管理の点から、もしもの時に自身の代わりに財産を管理する者に管理権限が移行するように特定の財産(銀行口座、不動産等)を予め共同名義(Joint Account / Tenancy)としたり、生前信託を設定するなどして、能力喪失後も成年後見制度に頼ることなく自らが希望した通りの財産管理が実現されるようにプランニングをしておくことはアメリカでは一般的です。

3.国境を越える成年後見

⑴ 国際裁判管轄

成年後見に関する国際裁判管轄は、家事事件手続法ではなく通則法に定められており、「成年被後見人、被保佐人又は被補助人となるべき者が日本に住所若しくは居所を有するとき、又は日本の国籍を有するときは、日本法により、後見開始、保佐開始又は補助開始の審判をすることができる」とされています(通則法5条)。

ですので、被成年後見人が日本人もしくは住所が日本国内にあるときは、日本の家庭裁判所に成年後見開始審判の国際裁判管轄が認められます。なお、被後見人の財産が日本にあるだけでは、国際裁判管轄は認められません。

成年後見開始等の審判の取消審判等は、本条の適用範囲とはされないため、事案ごとに裁判所が決定することになります。

⑵ 準拠法

被後見人の本国法が準拠法となりますが、外国人の被後見人等でも、①当該外国人の本国法によれば後見等が開始する原因がある場合で、日本に後見等の事務を行う者が(ほかに)ないときや、②日本でその外国人について後見開始の審判等があったときは、日本法が準拠法となります。

⑶ 外国判決の承認

アメリカで成年後見が開始した場合、外国非訟事件の承認が問題となります。アメリカ在住の日本人につきアメリカの裁判所による後見審判がある場合、外国審判は承認され、日本における成年後見人の権限行使は認められることになるでしょう。

4.国境を越える任意後見(持続的代理権に基づく代理人)

⑴ 国際裁判管轄

任意後見に関する国際裁判管轄は、人事訴訟法等の改正時に議論がされたものの、家事事件手続法に明文規定は設けられませんでしたので、解釈により決定することになります。

この点につき、①日本に任意後見の登記がされている場合に国際裁判管轄を認めるべきとする考え方や、②財産管理契約(委任契約)や準委任契約として債権契約と同様の国際裁判管轄が認められる、とする考え方があります。

⑵ 準拠法

ア 方式について

日本では、任意後見契約は公正証書により作成され登記される必要があります。方式については、通則法10条を適用して行為地法(たとえばアメリカ)の方式によることができるとする見解と、後見(通則法35条)として通則法34条を適用する見解があります。

この点、実務では、公正証書や登記に関する規定は強行的適用法規として特別連結され、日本の方式によることが必要となると解されているようです。

イ 成立及び効力

任意後見契約は委任契約とされるので、通則法7条以下に基づいて契約の成立及び効力の準拠法が決定されると考えられています。そこで、当事者が法律行為の当時に選択した準拠法がある場合はその法が、準拠法の合意がなければ最も密接な関係のある地の法が準拠法となります。

もっとも、任意被後見人が事理弁識能力(法律行為の結果を判断することができる精神能力)を失った段階での任意後見契約の有効性や効力については、通則法35条を適用して日本法に依拠する必要があるとされているようです。

⑶ 外国の任意後見人の日本における権限

外国の任意後見契約に基づく任意後見人の権限が日本で認められるかが問題となります。アメリカの任意後見では裁判所の関与がないため、外国審判の承認ではなく、国際私法の問題(どの国の法律を適用するか)となります。

 

以上のように、日本と異なりアメリカでは後見制度は基本的には回避すべきものと考えられており、そのためにはプランニングが重要となります。プランニングに関するお悩みごとは、経験豊富な当事務所へまずはご相談ください。

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