キャプティブとは、自社やグループ会社の損害保険を引き受ける子会社をいいます。キャプティブを通じて海外の保険市場にアクセスすることも可能となり、税務面の効果も期待できます。
1.キャプティブ(Captive)
⑴キャプティブの目的
キャプティブとは、親会社やそのグループ会社の保険を引き受けるために設立する特定目的子会社です。
日本では、日本に支店等を設けない外国保険業者が、日本居住者や日本国内所在財産に係る保険契約を締結することは禁止されており、違反した場合、外国保険業者は刑事罰の対象になり、保険契約者も過料の対象となります。そのため、日本企業は海外の損害保険市場に直接アクセスできません。
しかし、日本国内では損害保険会社の数や保険商品数が限られており、保険料も海外と比べて割高なことも多く、自社事業に最適な損害保険が見つからないという事態も生じます。
そこで、一定規模の企業の場合、海外にキャプティブを設立して保険業ライセンスを取得することで、海外の魅力的な再保険市場にアクセスし、自社に最適な保険を世界中から探すことが可能になります。
現在、世界の多くの国や地域がキャプティブを誘致するため、キャプティブ法制や税制を整備しています。キャプティブを持つ日本企業は現在200社程度と言われており、アメリカのハワイ州、バミューダ諸島、ガーンジー島が日本企業に評判の高いキャプティブ子会社設立地となっています。
⑵日本の損害保険会社の関与
日本の大手損害保険会社も、自社が引き受けた保険のリスクを自社だけで負担しておらず、再保険契約を他の保険会社と締結することでリスクを分散しています。そして、海外にキャプティブを持つなどして、海外で販売される多種多様な保険商品を購入しています。
前述の通り、日本企業が海外にキャプティブを設立しても、保険業法により、直接損害保険契約を締結することはできません。
そこで、日本企業は、日本の損害保険会社が自社のキャプティブと再保険契約を締結することを前提に、日本の損害保険会社との間で損害保険契約を締結します。
日本の損害保険会社にとっては、損害保険のリスクは全て契約者のキャプティブが負いながら、一定の手数料収入を得ることができますので、いくつかの損害保険会社はこのような損害保険契約を締結しています。
2.キャプティブとタックスヘイブン税制
⑴キャプティブに利益が移転する仕組み
キャプティブでは、日本の親会社から日本の損害保険会社へ支払われる元受保険料は費用計上され、日本の損害保険会社から海外のキャプティブに支払われる再保険料はキャプティブで収益計上されます。
ここで、キャプティブが(例えば、外部監査の費用、設立地の保険規制によるライセンス取得・更新にかかる費用、専門家のコンサルティング費用、その他一般の会社同様に人件費、オフィスの賃料等)や海外の保険会社に支払う再々保険料などを支払った後に、利益が残ることがあります(海外の損害保険料は安く充実しているためです)。
アメリカの連邦法人税は、トランプ前大統領が署名した税制改革法案(Tax Cuts and Jobs Act)により、2018(平成30)年1月1日より大幅に下がり一律21%となりました(もっとも、州による法人税の課税や控除の適用により、課税額は法人によって異なりますので、申告納税の際には専門家にご確認下さい)。
また、一定の要件を満たしている小規模の損害保険会社には投資収益のみが課税対象となる制度も認められています。
キャプティブに留保された利益を、日本の親会社に配当金として配当する場合、海外子会社からの配当益金不算入制度により、海外子会社から受け取った配当金の95%は非課税となりますが、残りの5%は経費にあたると見なされ課税対象となります。
なお、この制度の適用にあたっては、①日本の親会社が、海外子会社の株式を25%以上所有し、かつ②その持株比率が25%以上の状態で、6カ月以上その株式を保有している必要があります。
但し、租税条約の二重課税排除条項により株式等の保有割合が軽減されている場合(アメリカ10%、フランス15%、ブラジル10%、オーストラリア10%等)もあります。
そこで、日本企業は元受保険料を損金処理し、キャプティブからの配当金は益金に算入せずに受領できることになります。
⑵ タックスヘイブン税制
キャプティブに発生した利益が、日本のタックスヘイブン税制上どのように扱われるかが問題となります。
キャプティブはその事業(保険業)を主に日本の親会社やグループ会社の間で行いますので(非関連者基準)、実体基準、管理支配基準を充たし、かつキャプティブ所在地における租税負担割合が20%以上であり、キャプティブの収入保険料と支払再保険料が一定の条件を充たす場合には、タックスヘイブン税制は適用されないことになります。
3.ハワイ州におけるキャプティブ
⑴ ハワイ州のキャプティブ
2024(令和6)年6月30日時点で、ハワイ州で認可されているキャプティブの数は273あります。このうち日本企業関連のキャプティブは40社程度です。
⑵ ハワイ州におけるキャプティブの設立方法
ハワイ州では以下の順序に従ってキャプティブを設立することになります。
① ハワイ州で認可されたキャプティブ保険運営会社を選択します。2024年現在、ハワイ州には23の認可キャプティブ保険運営会社があります。
② ハワイ州商業局(The Department of Commerce and Consumer Affairs:DCCA)の保険庁(Insurance Division)のキャプティブ保険課(Captive Insurance Branch)と事前相談を行います。キャプティブ保険会社認可の申請書案や、株式会社の定款(Articles of Incorporation)と細則(By-Laws)の案を提出して、キャプティブ保険会社設立に関する予備的な相談をします。
③ 善良証明書(Certificate of General Good、キャプティブ保険会社の設立はハワイ州の利益になるという承認を得たことの証明書)を保険庁に申請し、受領します。
④ 法人登録庁(Business Registration Division)に、定款や善良証明書などを提出して株式会社の設立を行います。定款受理後一週間以内に会社登録手続は完了します。
⑤ 法人の納税者番号入手や銀行口座開設などの作業を進めます。
⑥ 保険庁が提示した資本金額を銀行口座に入金します。キャプティブには資本金の条件があり、事業の内容や規模に応じて最低額が定められています。
⑦ 保険庁に、法人の役員2名が署名した金融情報報告書(Statement of Financial Condition、資本金入金を証明する書類)を提出し、初回のライセンス料を支払います。
⑧ 保険庁が許可証明書(Certificate of Authority)を発行します。許可証明書の発行を受けてはじめてキャプティブとして業務を開始できます。
なお、ハワイ州では、ハワイ州在住の役員選任は必要ありませんが、ハワイ州在住の登録代理人(Registered Agent)が必要となります。
以上、キャプティブについて解説を行いました。エステートプランニングに関するご相談は、経験豊富な当事務所へまずはご相談ください。
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