1.タイムシェアとは
このところ、例えばハワイといったリゾート地にあるホテルやコンドミニアムのタイムシェアに関する相談が増えています。
「タイムシェア」とは、毎年、1年のうち一週間などの決まった期間についてその施設に宿泊ができる不動産所有権をいいます。事業者によっては、系列のホテルに宿泊できるなどリゾートの利用権が一体になっているものも多くありあります。
空港やホテル、百貨店等で、世界的なホテルグループの名を冠した事業者から「気軽にリゾートライフが手に入りますよ」などと勧誘されたことがある方も多いのではないでしょうか。
タイムシェアは、ホテルやコンドミニアムの一室など、ひとつの不動産を52週で分割し、そのうちの一週間分等、「時間で」所有する権利で、これは日本にはない考え方です。
海外に別荘を所有するのは難しくても、タイムシェアなら手の届く価格であると感じたり、海外不動産としての資産価値を期待する方もいらっしゃるようです。
たしかに、タイムシェアのホテルやコンドミニアムは、一般的に予約して利用するホテルの部屋より広かったり眺望がすばらしかったりする場合が多いようですので、定期的にリゾート地を訪問する機会のある方にはとてもメリットのある資産といえます。
しかし、魅力的に見えるこのタイムシェアですが、れっきとした不動産所有権になるため、要らなくなった時の手放し方、いわゆる資産の出口において問題が発生することが多いのです。
2.タイムシェアについてよくある相談
ご相談で多いのは、次のようなケースです。
【ケース1】
旅行先で訪れたハワイにて、滞在中にタイムシェアの説明会に参加したところ、お得に感じたし、今後訪問する契機づけになると思い契約した。
その後、状況が変わり今後も利用する機会がなさそうなので売却したいが、購入額より大幅に値引きした売り出し価格でも買い手が付かない。
円安の影響で当初より高額の年間管理費も非常に負担なため、どうにかしたい。
【ケース2】
老後の楽しみとして、年に一度リゾートで過ごせればと思い、契約書も英語で内容はよくわからなかったが、費用は自分たちの賄える範囲だったため思い切って契約した。
しかし、その後、家族の指摘でタイムシェアが不動産の所有権であることがわかった。相続で子どもらに迷惑をかけたくないので、ローン途中であるが解約したい。
3.タイムシェアについて知っておくべき点
これらのご相談から見えてくる、タイムシェアの契約前に知っておくべき点は、次のようなものになります。
・タイムシェアの購入は、不動産の売買契約である。
・事業者が定める解約期間後においては、解約は簡単ではない。
・売却額は購入額より大幅に下がる。時には無償譲渡でも引き取り先が見つからないこともある。
・無事に売却先や譲渡先が見つかったとしても、登記の書き換えなど、手続に一定の費用がかかる。
・売却するまでは管理費の負担が必要である。
・相続が発生した場合、現地の(ハワイのタイムシェアの場合であればアメリカの)法律に基づいた相続手続が必要になる。
4.相続時の問題
相続が発生した場合、ハワイのタイムシェアはアメリカ所在の財産として、プロベートという裁判所の監督下での相続手続が必要になります。これには時間(通常1~3年程度)も費用(現地の弁護士と、調整役となる日本の弁護士の費用)もかかります。
「資産として子どもに残せる」という言葉に間違いはありませんが、子どもたちにとっては負担の大きな「負の遺産」となる可能性もあります。
(プロベートについて詳しくは「どうして外国ではプロべートという手続きが必要になることがあるのでしょうか?」「アメリカのプロベート手続きとはどういったものでしょうか」をご参照ください)
ところで、タイムシェアを契約する際、夫婦での共有形態(ジョイント・テナンシーといいます)が条件になっていることもあるようです。
この場合、例えば夫が亡くなったときに夫婦間での相続手続は不要(生存配偶者が権利を相続するため)ですが、その後、妻が亡くなった際には上記プロベート手続は必要になります。
5.税務面における検討
さらに、税務面でも検討すべきリスクはあります。
例えば、相続が発生すると、日本の相続税のみならず、海外での遺産税納税義務も発生し、その調整が必要になる場合があります。
その場合、現地の税理士の費用も必要になるでしょう。
6.最後に
実際に当事務所がかかわったケースでも、場合によっては解決まで非常に時間がかかることもあり、相談者の負担は決して軽くはありません。
しかしながら、上記のようなケースでは、ご自身において解決を図るのは簡単ではないため、国際弁護士への相談が望まれます。