日米社会保障協定により、日本とアメリカの年金の加入期間は通算できるようになりました。
また、家族年金には家族のアメリカ居住実績が求められませんので、年金受給者がアメリカに単身赴任していても、家族に家族年金が支給される可能性があります。年金受給者本人が死亡した場合、配偶者は60歳から年金を引き継ぐことができます。
1.アメリカの公的年金制度の概要
アメリカの公的年金制度の正式名称は、老齢・遺族・障害保険制度(OASDI:Old-Age、 Survivors and Disability Insurance)といいます。
アメリカで給与やその他の一定額の収入を得た場合、社会保障税(Social Security Tax)として保険料が自動的に徴収されます。
社会保障税は給与の12.40%(労使6.20%ずつ折半。自営業者は12.40%負担)で、国家負担は原則としてありません。
一定の年金加入期間の経過が受給要件の一つとなっている点は日本の年金制度と同じですが、アメリカでは年金加入期間を月数ではなく3か月を1単位とする「クレジット」(QC: Quarters of Coverage)でカウントします。
クレジットの付与は月数と1年間(1~12月)の収入額のマトリックスにより決定され、1クレジットを取得するのに必要な収入額は1810ドル(2025(令和7)年現在)となっています。
収入額が高ければ少ない月数でクレジットが取得できますが、1年間に取得できるのは最大4クレジットまでと決まっています。
2.受給資格
⑴ 最低加入期間
老齢年金を受給するための最低加入期間は40クレジット(10年相当)とされています(Social Security Act)。
以前は加入期間が40クレジットを満たさない場合、後に老齢年金が受給できず掛け捨て状態となっていましたが、2005(平成17)年10月1日に発効した日米社会保障協定により、日本・アメリカ両国の年金加入期間を通算することが認められるようになりました。
これにより以下の要件を満たす場合には、アメリカの滞在期間が10年に満たない場合であっても、アメリカの老齢年金の受給が可能となりました。
【アメリカの老齢年金の受給資格要件】
ⅰ 日本・アメリカ双方の年金制度の加入期間を足すと10年(40クレジット)以上あること。ただし、1年6か月(6クレジット)はアメリカに滞在し、社会保障税を支払っていること。
ⅱ 62歳以上であること。
なお、この協定により、駐在員がアメリカに赴任する場合、以下の要件を満たせば、アメリカでの社会保障税の負担が免除されます。
ⅰ 日本の年金制度に加入していること。
ⅱ 日本の会社と雇用関係が継続していること。
ⅲ 派遣期間が5年以内と見込まれること。
ⅳ 派遣前の半年以上、継続して日本で雇用されていたこと。
⑵ 年金支給開始年齢
アメリカの老齢年金の満額受給年齢は生まれた年により異なります。
現在、年金満額の支給開始年齢は67歳(1960(昭和35)年以降に生まれた人の場合)まで段階的な引上げが行われている途中にあります。
支給開始年齢は62歳まで繰り上げることができますが、その場合、受給する年金額が一部減額されることになります。
3.年金額
老齢年金の支給額の算定の基礎となる基本受給額(PIA:Primary Insurance Amount)は、賃金を平均賃金の伸びに応じて修正したスライド済み平均報酬月額(AIME:Average Indexed Monthly Earning)を用いて計算されます。
4.本人以外の家族年金(Family Benefits)
アメリカの公的年金は、年金受給者の生存中に、その家族も一定の給付(家族年金)を受けることができます。
家族年金は年金受給者の老齢年金の最大50%が支給されます。
⑴ 配偶者
年金受給者の配偶者も、以下の資格要件を満たす限り、家族年金を受給することができます。
ⅰ 配偶者の年齢が62歳以上であること。
ⅱ 受給申請の日から少なくとも1年以上の婚姻期間があること。
ⅲ 年金受給者が既に受給申請を行っていること。
なお、年金受給者本人の死後、配偶者が再婚した場合はこのような資格は失われてしまいます。
さらに、2015(平成27)年6月26日、全米で同性婚の有効性を認めた連邦最高裁の判決(「Obergefell v. Hodges」)を受け、現在では同性婚の配偶者の場合も家族年金の支給対象となっています。
また、法律婚をしていない場合であっても、年金の受給申請時や年金受給者の死亡時点で年金受給者の妻、夫、未亡人、寡婦等と裁判所に認められた場合は、家族年金の支給対象として取り扱われることがあります。
なお、アメリカの家族年金は事実婚には支給が認められていません。
⑵ 離婚した元配偶者
アメリカの家族年金は元配偶者(元妻・元夫いずれも)も、以下の資格要件を満たす場合、支給対象とされています。
元配偶者が再婚をすると家族年金を受給する権利は失われますが、元配偶者が60歳を超えてから再婚をした場合はこの権利を失うことはありません。
ⅰ 元配偶者の年齢が62歳以上であること。
ⅱ 婚姻期間が10年以上であったこと。
⑶ 子及び孫
年金受給者の子や孫も以下の場合は資格要件が認められ、家族年金の支給対象となります。
ⅰ 18歳未満であること。
ⅱ 18歳であるが、高校又はそれ以下の学校の生徒である場合。
ⅲ 18歳を超えているが、22歳までに心身に障害が認められた場合。
但し、子は未婚で年金受給者に扶養されている必要があります。
年金受給者が死亡した場合、子どもは基本受給額の75%を受給することができます。
もっとも、家族年金には後述する通り支給に限度額があるため、子どもがたくさんいる場合は一人あたりに75%満額の支給が行われることはありません。
⑷ 親
年金受給者が死亡すると、扶養されていた親も一定の要件を満たす場合に家族年金を受給することができます。
⑸ 家族年金の支給額の上限
家族年金が支給される場合、年金受給者本人に支給される金額と家族年金として支給される金額の合計には一定の上限(Family Maximum Benefit)が設けられています。
5.所得制限
アメリカでは62歳以降、老齢年金を受給することができますが、勤続年数が増えるとそれだけ社会保障記録に1年分の収入が加算され、将来得られる年金額を増やすことができるため、多くの人が年金を受給しながら働き続けています。
ただし、アメリカ国外に居住する人(満額年金受給年齢に達していない場合)に関しては、実際の収入の把握が難しく、また通貨が異なるといった理由から、1月に45時間以上就労すると年金全額の支給が停止されます。
さらに、アメリカの社会保障税を徴収されることのない仕事に従事し、その結果、その仕事から得た収入から保険料を支払い、後に年金を受給している場合(たとえば、日本の企業に勤め、厚生年金保険に加入し、後に厚生年金を受給しているような場合)、その年金の一部に相当する金額がアメリカの老齢年金から減額されることがあります。
これはいわゆる棚ぼた排除条項(WEP:Windfall Elimination Provision)という規定に基づくものであり、海外駐在員として働いたことのある日本人が、後に日本・アメリカ両国の年金(老齢年金)を受給する場合などにも問題となることがあります。
棚ぼた排除条項は遺族年金の受給者やアメリカの公的年金の加入期間が30年以上となる場合は適用されません。
6.日本における請求手続
アメリカの公的年金の請求手続は、年金を受給する3か月前から日本国内の最寄りの年金事務所で行うことができます。
なお、アメリカの年金の受給権は6か月で時効消滅してしまいます。つまり、受給の申請時から6か月以上さかのぼって年金を受給することはできませんので、注意が必要です。
7.IRAとRoth IRA(個人退職基金口座)
⑴ IRA
IRAは、日本の個人型確定拠出年金(iDeCo,イデコ)と似た制度です。
毎年一定額を退職後の資金形成目的のために積み立てる場合、その積立金はIRAの条件を充たせば、調整総所得前控除(参考コラム「アメリカ市民とアメリカ居住外国人の連邦所得税の計算方法について教えてください」)で控除されます。
また、積立金から生じる毎年の利息や配当などの収益も非課税となります。
もっとも、積立元金、利息をIRA口座から受け取る時点で総所得(GI)に算入され、総合課税で所得税が課税されます。
⑵ Roth IRA
Roth IRAも、IRAと同様に貯蓄を推奨する制度です。
しかしIRAと異なり、積立金が所得から控除されない一方で、積立金から生じる毎年の利息や配当などの収益は非課税となり、また積立元金や利息をRoth IRA口座から受け取る時点でも所得税は非課税となります。
⑶ 年間拠出限度額
IRAとRoth IRAを合わせた年間拠出限度は、2025(令和7)年度は一人当たり7000ドル(50歳以上なら8000ドル)で夫婦なら倍の1万4000ドル(50歳以上なら1万6000ドル)です。
⑷ 日本における請求・相続手続
アメリカのIRA、Roth IRAの請求手続や相続手続は、開設した金融機関に連絡して行います。
以上の通り、アメリカの年金制度について解説いたしました。
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