国際相続コラム

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長年の海外在住者が日本に帰国する際に配慮すべきこと

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例えばアメリカに長年住んでおられても、歳を重ねてから日本での生活が非常に懐かしくなり親戚等を頼って日本に帰国しようと考える方は非常に多くいらっしゃいます。

長年の海外在住者が日本に帰国する際にはどのようなことに配慮をする必要があるか考えます。

1.在留資格の取得または簡易帰化の検討

日本に居住するには法的な根拠が必要となりますので、アメリカ市民権を自分の意思で取得したことで日本国籍を喪失している場合には、まず在留資格の取得か簡易帰化の検討が必要となります。

アメリカ市民権を維持したままであれば在留資格の取得、または日本国籍を再取得するには帰化の手続が必要です。

⑴ 在留資格の取得

外国籍を有する元日本人が、中長期間、日本に帰国しようとする場合、在留資格を取得する必要がありますが、この場合は「日本人の配偶者等(日本人の子)」(出入国管理及び難民認定法別表第二)の在留資格の取得を検討することになるでしょう。

在留資格の申請時には、国籍離脱の記載がある戸籍(除籍)謄本の提出が必要となりますので、国籍離脱の届出が未了の場合には、まずはその届出から行う必要があります。

また、「日本人の配偶者等」の在留資格の取得者には、永住許可申請において要件緩和の特例が認められているため、外国籍を保持したまま日本に定住したいという場合には、永住権の取得を検討することになるでしょう。

⑵ 簡易帰化の手続

外国人が日本に帰化しようとする場合、充たすべき7つの要件(住所要件、能力要件、素行要件、生計要件、国籍喪失要件、日本国憲法遵守要件、日本語能力要件)があります。

元日本人が再度、日本国籍に戻る場合には、簡易帰化の制度により住所要件(原則は日本での継続した在留年数5年が必要とされるところ、帰化申請時に日本に住所を有する場合は在留年数0年と大幅に緩和されています)、能力要件、生計要件が緩和され、日本国籍の再取得が認められやすくなっています。

もっとも、簡易帰化の場合でも事務手続自体がそれほど緩和されるわけではありません。

なお、日本に帰化する場合は、アメリカ市民権を離脱する必要があります。

2.日本で必要な手続

⑴ 年金手続き

年金は、老後の生活資金の主な収入源となりますので、これについても帰国の前後において手続が必要となります。

日本の老齢年金は、受給資格期間が10年以上ある場合は原則65歳(2022(令和4)年現在。厚生年金の加入が1年以上あり老齢基礎年金の受給資格期間(10年)がある場合は、生年月日に応じて65歳前から支給されます)から受給を開始することができます。

年金の請求手続は、帰国後、最寄の年金事務所で行うことができますが、この手続には年金手帳等の年金基礎番号が分かるものや戸籍謄本(国籍離脱されている場合は除籍謄本)等が必要となります。

アメリカの年金についても、帰国後、日本の最寄の年金事務所を介してアメリカ大使館に請求手続を行うことができます。

既に受給を開始されている場合は、届出住所や年金の受給口座の変更手続を行う必要があります。

この手続はアメリカの年金事務所(Social Security Administration:SSA)で行うことができます。

なお、日本の銀行で年金を受給できるようになる前にアメリカの銀行の受給口座を解約してしまうと、その間に支給される年金は振込みができず、SSAに戻されてしまいます。この場合、別途、年金の取り戻しの請求を行わなければなりませんので、アメリカの口座の解約の時期には注意が必要です。

⑵ 医療・介護の確保

日本では、誰もが安心して医療を受けられるように、すべての国民が公的な医療保険に加入することが義務付けられています(国民皆保険制度)。

公的医療保険は、会社などに勤務する人が加入する「被用者保険」、農業者やフリーランス、職業についていない人などが加入する「国民健康保険」、75歳以上の国民全員を対象とする「後期高齢者医療制度」の3つに大別されます。

この公的医療保険制度のおかげで、日本では原則3割の自己負担で医療サービスを受けることができます。外国人も在留期間が3か月を超える場合は、75歳未満で被用者以外であれば国民健康保険に、75歳以上であれば後期高齢者健康保険に加入する義務があります。

加入手続は入国日から14日以内に居住地の市役所等で行う必要があります。

また、日本では40歳以上の国民全員に、介護保険の加入が義務付けられています。介護保険料は、40歳から64歳までの医療保険加入者は健康保険料と一緒に徴収され、65歳以上は、原則、年金から天引きされます。

外国人であっても、在留期間が3か月を超え、65歳以上又は40歳から65歳未満の医療保険加入者は介護保険に加入する必要があります。

日本で安心して老後の生活を送るためには、これらの公的保険制度によるサービスの利用は不可欠です。

外国からの帰国者も例外ではありませんので、帰国後は速やかにこれらの保険の加入手続を行うことをお勧めします。

3.アメリカで必要な手続

⑴ アメリカにおける所得税

日本に帰国した後も、アメリカ市民権や永住権を保持し続ける場合、全世界の所得をアメリカ政府に対して申告する必要があります(参考コラム「アメリカの連邦所得税の納税義務者の分類について教えてください」)。

また、アメリカ市民や永住権は、FATCA(Foreign Account Tax Compliance Act)やFBAR(Report of Foreign Bank and Financial Accounts)により、一定額以上の国外の金融機関の口座で保有する資産について内国歳入庁(Internal Revenue Service:IRS)に報告する義務があります(参考コラム「アメリカの国外財産調査制度について教えてください」)。

⑵ アメリカの出国税

アメリカ市民権や永住権を放棄する場合、一定の資産を持つ場合には出国税が課せられる可能性があります(参考コラム「アメリカの永住権(グリーンカード)や市民権の取得時に注意すべきこと」)。

4.帰国後の相続手続と税金

⑴ 相続手続に向けた準備

相続開始時にアメリカに一定額以上の財産が残っている場合、相続人がそれらを相続するためにはアメリカでプロベートを申し立てる必要があります(参考コラム「アメリカのプロベート手続きとはどういったものでしょうか」)。

そこで、日本に帰国する際には、信託、TODなどの遺産代替物を利用してプロベートを回避するか、外国の資産を現金化して日本に持ち帰ることが考えられます。

⑵ 相続税対策

日本に帰国した後で亡くなった場合、その相続人には日本の相続税の納税義務が生じます。

そこで、アメリカ在住者に対して相続や贈与を考えている場合には、日本に帰国する前にアメリカにある資産をアメリカ居住者に贈与することが考えられます。

 

以上の通り、長年の海外在住者が日本に帰国する際には、事前の入念な検討が必要ですので、専門家とご相談しながら準備をすることをお勧めします。

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