1.世界の相続手続きは大きく二つの制度に分けられる
そもそも、相続法というものはその国や地域の文化や歴史、宗教に基づいてそれぞれ異なるのですが、大きく相続時に負債の清算を行う制度(管理清算主義)と、相続人が負債をそのまま引き継ぐ制度(包括承継主義)に分けることができます。アメリカ,イギリス,オーストラリア,香港,シンガポールなどの英米法系の国々では管理清算主義が採用されていることが多く、ドイツやイタリア,フランス,台湾などの大陸法系の国々では包括承継主義が採用されています。
2.日本は包括承継主義を採用している
日本では、相続が開始されると、亡くなった方のプラスの財産(預金など)だけでなくマイナスの財産(借金など)も一緒に引き継ぐことになります。マイナスの財産を引き継ぎたくない場合は、プラスの財産も含め相続自体をしない(相続放棄)か、すべての相続人がそろって手続きする必要のある「限定承認」という制度を利用するしかありません。
遺言に法定相続分と異なる指定があった場合でも、債権者は法定相続分に応じて法定相続人に対して権利行使ができます。また、遺産分割で借金の負担割合を定めても、債権者には効力が及びません。
3.管理清算主義の相続手続きをプロベートと呼ぶ
管理清算主義を採用している国では、相続開始により亡くなった方の遺産は、日本のようにそのまま相続人に引き継がれるのではなく、遺産財団(アメリカではEstateと呼ばれます)に組み入れられることになります。通常、裁判所によって相続人の中から遺言執行者(遺言がある場合・Executor)や遺産管理人(遺言がない場合・Administrator)が選ばれ、その人たち(人格代表者と呼ばれます)が借金や税金を支払い、その上でなお余った財産を相続人に分配します。この手続きを一般的にプロベート(Probate)と呼びます。
4.プロベートのメリット・デメリット
メリット1: 通常、プロベートでは人格代表者がすでにわかっている債権者へプロベートが始まったことを知らせたり、把握できていない債権者がいないか調査したりして、借金や税金を遺産財団から支払います。一定の期間が経過すると、債権者は相続財産に対して権利主張ができなくなります。そのため相続人はプロベートを経ることによって、借金を引き継ぐことはなくなります。
メリット2: 相続人や受遺者は、プロベート中に人格代表者が発行する不動産の権原証書(Deed)に基づいて、円滑に権利を承継することも可能となります。
メリット3: プロベートは裁判所の関与の下、人格代表者が遺産財団に対して信認義務 を負って管理清算手続を進めますので、適正な相続手続が期待できます。
デメリット: プロベートでは、遺言書や相続財産の内容が公開されます。また、管理清算手続には時間も費用(特に人格代表者とその代理人弁護士に支払う費用)もかかる点が、デメリットとなります。
プロベートについては、また別のコラムで詳しく解説します。
5.まとめ
以上、みてきたように、日本は包括承継主義を採用しているため、プラスの財産も借金もぜんぶひっくるめて相続人に引き継がれます。他方、管理清算主義を採用している国では、遺産はそのまま相続人が引き継ぐのではなく、遺産財団に組み入れられ、人格代表者が清算をしてから分配される仕組みになっています。アメリカなど、管理清算主義を採用している国にある遺産を引き継いだ場合、プロベートが必要になるというのはこのためです。
※なお、日本の遺言検認手続もプロベート(Probate)と英訳されますが、管理清算主義におけるプロベートには、遺言の検認手続だけでなく、遺言の有効性の確認、遺産の管理清算手続まで含まれる点で大きく異なります。
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