国際相続コラム

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アメリカでの相続手続で、プロベートが必要でない場合はありますか

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アメリカでは、①財産がプロベート対象の遺産に含まれない場合、②財産がプロベート対象の遺産に含まれるものの少額である場合、③包括承継手続を採用する州での手続に、プロベートが必要でない場合があります。以下詳しく見ていきます。

※アメリカのプロベート手続は州法に基づくため、州によって手続や効果は異なります。以下では代表的な手続きを取り上げていますが、すべてのケースに当てはまることではないことをご了承ください。

1.アメリカのプロベート対象外の財産

相続時に移転する財産は、法律的に相続財産とされる検認遺産(Probate Estate,検認財産(Probate Property)とも言われます)と、プロベート外で移転する非検認遺産(Non-Probate Estate,非検認財産(Non-Probate Property)とも言われます)に分けられます。

検認遺産とは、被相続人が相続開始時に所有していた財産や、死亡時及び死亡後に遺産に含まれる財産で、適用法に基づいて管理される遺産をいいます。

プロベートには時間も費用も必要となることから、アメリカの相続対策では遺産税の軽減のみならずプロベート回避のためのプランニングが重要とされており、そのために非検認遺産が活用されます。

生前信託╱撤回可能信託の設定

アメリカではプロベート回避のために撤回可能生前信託(Revocable Inter Vivos Trust)がよく利用されています。

撤回可能生前信託は、信託の撤回権を委託者に留保する生前信託で、統一信託法典(Uniform Trust Code:UTCとは信託法の統一を目指して制定されたモデル法文で、連邦法ではないため各州でその法文が採択されて初めて制定法となります。現在36州が採用しています)では撤回可能信託が原則とされ、「撤回不可能」と明記されない限り撤回可能信託となります。

撤回可能生前信託は、信託設定後に取得して信託に組み込まれていない遺産もすべて信託財産に追加する遺言(Pour-over Will,「注ぎ込み遺言」とも言います)とともに用いられますが、この注ぎ込み遺言がプロベート自体を回避するものではありません。

共同名義口座(ジョイント・アカウント)

日本では単独名義口座しか作ることはできませんが、アメリカでは通常、単独名義口座(Individual Account)だけでなく、共同名義口座(Joint Account)の開設もできることがほとんどです。

共同名義口座とは、複数の名義で一つの口座を保有するもので、口座の名義人であれば誰でも資金を引き出すことが可能です。共同名義口座は通常、銀行の窓口で所定の手続を行うだけ開設することができ、単独名義口座を開設した後でも、名義人を追加して共同名義口座へ変更することができます。

生存者受取権(Right of Survivorship)付の共同名義口座(銀行のステートメントに“JAWROS”などと表示されます)であれば、共同名義人の一人が死亡した場合、その権利は自動的に他の共同名義人に移転します。銀行に死亡した共同名義人の死亡証明書を提出することで単独名義に変更することが可能ですので、プロベートを経る必要がありません。

もっとも、名義人が日本人など外国籍の場合、名義変更が容易でないこともあるようです。

なお、生存者受取権が付いていない共同名義口座は上記の効果は発生せず、死亡した共同名義人の遺産となり、原則としてプロベートが必要となります。

死亡時受取人指定口座(Payable-on-Death (POD) Account)

アメリカの多くの州の銀行では、口座名義人の死亡時に口座の権利を受け取る受益者をあらかじめ指定できる、死亡時受取人指定口座(Payable-on-Death:POD Account)を開設することができ、ジョイント・アカウントと同様、アメリカではプロベート対策によく利用されています。

死亡時受取人指定口座は、指定により口座の権利が移転するため、プロベートを経る遺産にはなりません。相続発生時には、被相続人の死亡証明書を銀行に提出することで、プロベートを経ずに口座の権利は指定された受取人に移転します。

口座名義人の生存中に預金を引き出せるのは名義人だけで、相続発生まで指定受取人は口座預金に関して何の権利も有しません。この点で、共同名義人として自由に預金を引き出すことができる共同名義口座と異なります。

なお、非居住外国人にはPODの設定が認められないこともあります。

合有財産

⑴ 合有財産権(Joint Tenancy)

合有財産権は、持分権者の死亡時にその合有持分が消滅し、他の生存持分権者の持分が拡張することで、持分が移転する生存者受取権(Right of Survivorship)が認められる共有形態です。

相続により合有持分が消滅しますので、プロベートの対象の相続財産にはならず、プロベートは必要ではありません。

⑵ 夫婦全部保有(Tenancy by the Entirety)

夫婦の生存中は、夫婦の一方が配偶者に無断で保有持分を売却したり、抵当権を設定することはできず、また一方の債権者が保有持分を差し押さえることができない夫婦全部保有(Tenancy by the Entirety)という合有に似た財産権があります。

夫婦全部保有も、相続により夫婦保有持分が消滅しますので、プロベートの対象にはならず、権利の移転にプロベートは必要ありません。

現在、ハワイ州、フロリダ州、マサチューセッツ州等、アメリカの半数ほどの州で認められます。

死亡時承継人指定登録(Transfer-on-Death (TOD) Registration)

不動産について予め死亡時の譲受人を指定した権利証(Transfer on Death Deed)を作成し登記所で登録することにより、相続開始後、プロベートを経ることなく当該不動産の権利を受取人に移転させることのできる制度(Transfer-on-Death Registration)が以下の州で認められています。

なお、カリフォルニア州のTODは2016年に5年間の時限立法として立法化され、2022年に延長されて2032年1月1日までの時限立法となりました。

TOD採用州
アラバマ,アリゾナ,アーカンソー,カリフォルニア,コロラド,コロンビア特別区,ハワイ,イリノイ,インディアナ,カンザス,メイン,ミネソタ,ミシシッピ,ミズーリ,モンタナ,ネブラスカ,ネバダ,ニューメキシコ,ノースダコタ,オハイオ,オクラホマ,オレゴン,サウスダコタ,テキサス,ユタ,バージニア,ワシントン,ウェストバージニア,ウィスコンシン,ワイオミング

不動産の合有と異なり、不動産の所有者の存命中は、死亡時承継人は不動産について権利を有しないため、相続開始まで所有者が不動産の売却や死亡時承継人の撤回・変更を自由に行うことができます。

もっとも、死亡時承継人の指定は不動産ごとに権利証に定める必要がありますし、死亡時承継人が所有者より先に死亡した場合にも対応できません。

遺言

アメリカでは一般的に遺言による特定遺贈でも受遺者に対する物権変動は生じず、遺産管理人による遺産の管理清算(プロベート)が必要となります。

ですから、遺言はプロベートにおける分配手続を容易にしますが、プロベートそのものを回避することはできません。

なお、非検認遺産の受取人の変更を遺言等で変更することを認める州もあります。

たとえばハワイ州では生存者受取権や信託受益権の受益者の指定などを遺言で変更することはできませんが、ニューヨーク州では遺言による信託受益権の受益者の変更が認められています。

2.宣誓動産回収手続

アメリカに所有する遺産価額が、一定の金額を超えない場合には、裁判所の関与(プロベート)なく、相続人が一定の事項について宣誓供述することで遺産を取得できる宣誓動産回収手続(Collection of Personal Property by Affidavit)などがあります。

3.包括承継手続

ルイジアナ州では大陸法系の法体系が採用されていることから、包括承継主義の相続制度が採用されています。

また、カリフォルニア州などでも、生存配偶者はプロベートを経ることなく被相続人の資産と負債を引き受ける選択をすることができる法律が定められています。

 

以上のように、アメリカでのプロベート回避のためには、プロベート対象外の財産(非検認遺産)を活用することが非常に重要です。また、アメリカでプロベートの対象とならない非検認遺産は、日本における遺産分割協議の対象にならない可能性が高いです。

そこですべての財産について全体的な相続プランニングを行わないと、意図と異なる結果になりかねませんので注意が必要です。

また、プロベート対象外の遺産であっても,アメリカでは遺産税、日本では相続税の対象となります。プロベート回避のプランニングと同時に、納税資金の確保など、税務面でのプランニングも重要です。

 

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