依頼者:日本在住日本人(被相続人の親族であり、不動産の共有者同士)
被相続人:日本在住アイルランド人
1. 事案
依頼者は、多数の親族と収益物件である不動産を共有していましたが、この不動産は近々売却される予定でした。しかし、売買契約の締結を目前としたところで、共有者の1人であった被相続人が急逝してしまいました。
被相続人の相続人はイギリスやスコットランド等の海外に居住しており、依頼者とは全く面識がありませんでした。
2. 課題
被相続人はアイルランド人でしたが、日本の国際私法(法の適用に関する通則法)によると、本国法であるアイルランド法が相続に適用されることとなります。
アイルランド法上、不動産については所在地法が、動産については被相続人の居住地法が適用されることとなり、本件不動産に関する被相続人の共有持分の相続については、不動産所在地である日本の相続法(民法)が適用されるという結論になります。そして、アイルランドの裁判所の管轄権は、原則、国外財産には及ばないため、現地でプロベートの申立てを行う必要はありませんでした。
日本の相続法に基づき、被相続人の共有持分については相続人全員による遺産分割協議を成立させること、相続登記手続に必要な書類を相続人の本国や居住国の方式により作成させる必要がありました。
3. 当事務所の対応
当初、海外居住の相続人全員に連絡がつく保証はなかったため、不在者財産管理人の選任申立ても検討しましたが、幸いなことに、相続人全員と連絡がつき、また彼らの代理人弁護士が就任したことから、不在者財産管理人の選任は不要となりました。
弊事務所では、これまで培ったノウハウを活かし遺産分割協議書(宣誓供述書)、サイン証明、居住証明等の必要な書類の準備をし、司法書士を介した事前の法務局の登記相談も利用しつつ相続手続をスムーズに遂行しました。
また、当初、名乗りを挙げていた買主が事情により、売買契約の締結を辞退し、一度は不動産の売却がとん挫することとなりましたが、弊事務所から実績のある仲介業者を紹介し、売却手続が進むようテコ入れするなど積極的なサポートを続けました。
4. 成果
海外居住の相続人らからの必要書類の徴求はスムーズに行われ、相続登記を期限内に完了させることができました。
また、当初の売買契約より良い条件を提示する買主が現れ、所有権移転登記に必要な書類の準備もスムーズに進み、依頼者、その他の共有者、海外居住の相続人ら全員にとって良い結果に導くことができました。