1.相続における国際私法の役割
相続法はその国や地域の文化、宗教、歴史等に深く根ざしており、国や地域で大きく内容が異なります。
例えば、被相続人に子どもも親もいない場合、日本法では相続人は「配偶者と兄弟姉妹」となりますが、外国法では相続人は「配偶者のみ」とされていると、どちらの国の法津を適用するかによって結論が変わることになります。
そのため、国際的な相続においては適用法が重要な意味を持ちます。
また、各国の法が異なる(抵触する)ことを前提に、問題となっている事案に「最も密接な関係」がある外国法を自国でも適用する考え方を多くの国が採用しています。このような法の抵触により生じる問題を解決する法は、「抵触法」や「国際私法」と呼ばれています。
2.相続に関する世界の国際私法(相続統一主義と相続分割主義)
相続に関する国際私法には、被相続人に焦点を当てる相続統一主義と、動産と不動産とで取り扱いを区別する相続分割主義が存在しています。
⑴ 相続統一主義
相続統一主義とは、相続財産の種類や所在地で適用する法律を区別するのではなく、被相続人の本国法又は常居所地などにより、統一的に適用する法律を決定する考え方です。
近時、相続統一主義を採用する国が増えています。
日本(本国法主義)やEU加盟国(常居所地主義)は相続統一主義を採用しています。
⑵ 相続分割主義
相続分割主義とは、相続財産を不動産と動産に分けて適用する法律を決定する考え方で、不動産の相続にはその不動産の所在地法を、動産の相続には被相続人の死亡時の本国法や常居所法を適用するものです。
イギリスやアメリカがこの相続分割主義を採用しています。
3.日本とアメリカの国際私法に基づく準拠法
上記の通り、日本では、相続財産の範囲や移転方法も含め、あらゆる相続問題について被相続人の本国法が統一的に適用される法律となります。
他方、管理清算主義を採用するアメリカでは、原則としてプロベートが必要となり、その手続において、遺産の管理清算に関しては遺言執行者や遺産管理人の任命地法が適用する法律とされ、遺産の分配(相続人の範囲、法定相続分等)に関しては、不動産は不動産所在地法、動産は被相続人のドミサイル地法が適用される法律とされ、複雑なものとなります。
4.国際的な相続では、どの国の法律が適用されるかは簡単に判断できない
国際私法には、「反致(はんち)」(自国の国際私法が指定した適用法が属する外国の国際私法が自国の法または第三国の法を指定している場合に、それに従って自国法または第三国法を適用法とすること)と呼ばれる考え方があり、国際的な相続では、適用法を決定する際にこの反致の成否についても検討する必要があります。
例えば、アメリカ人の被相続人が日本に不動産を遺して亡くなった場合、日本の国際私法に基づけば、被相続人の本国法であるアメリカの法が適用されることになりますが、アメリカの国際私法では不動産には所在地法、即ち、日本法が適用されることになり、このような場合に上記の反致が成立することになります。
このように国際的な相続では、適用法の問題は、日本の国際私法だけを基準に決定できるものではなく、被相続人の居住地や遺産の所在地が属する外国の国際私法との調整が必要となることがよくあります。
本コラムで取り上げたのは「どの国の法律に基づいて相続手続を進めるか」の問題ですが、国際相続においては、他にも「どの国(の裁判所)で相続手続を進めるのか」(国際裁判管轄の問題)や、相続に関する外国の裁判手続が日本でどのような効力を持つのか、逆に日本の裁判手続が外国でどのような効力を持つのかという問題(外国判決の承認の問題)もあります。
上記で見てきたように、適用法の決定の場面だけでも論点がいくつもあり、これに国際裁判管轄や外国判決の承認の問題も含めると、事案を解決するまでには複合的な論点のパズルをひとつひとつ慎重に解いく必要があります。
さらにここに言語の異なる手続きの複雑さも加わるため、国際的な相続については、早い段階で専門家に相談することをお勧めいたします。
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